第2話 洋服を買いに行こう!

「あれ、アディンくん……?起きたの?」


 俺が目を覚ますと、アリアさんもすぐに目を覚ましたようで、続けて言った。


「良かった……もしかしたら加減間違えちゃったのかと思って心配になっちゃった、どこか痛いところない?あったら私がなでなでしてあげるよ?」

「おかげさまでその心配はないみたいです」

「本当に?ちょっとぐらい痛いところない?」

「ないです」

「……良かったよ」


 そう言うアリアさんだったが、どこか不満げだ。

 俺に痛みがないことに安心したのは本当だと思うが、それと同じぐらいに俺のことを撫でたかったんだろう。

 ……目を覚まして早々だが、俺はアリアさんに言いたいことがあったのでそれを言わせてもらうことにした。


「どうして俺と同じベッドで、俺と同じ布団の中で寝てるんですか?」


 一年も一緒にアリアさんとは過ごしてきて、隣のベッドで寝るとか机で寝るみたいにして俺のベッドに頭を置いてアリアさんが寝ているということはあったが、一緒に寝るなんてことは今まで一度もなかった。


「だって、今日はルールとはいえ、私がアディンくんのこと気絶させちゃったでしょ?だからその責任を取って、一緒に添い寝しないとって」

「責任の取り方がおかしいですよ!それに、俺が言ったことですから、そんな責任感じないでください」


 そう言うと、俺は上体を起こして、アリアさんの方に顔を向けて言った。


「じゃあアリアさん、もし決まってたら俺に何か要求はありますか?……って言っても、よく考えたら俺にできることなんて、アリアさんにもできることだと思うので、そんなに思いつかないかもしれないですけど」

「ううん、あるよ!」


 アリアさんも俺と同じように体を起こすと、俺にそう返事をした。

 アリアさんが体を起こしたことで、アリアさんの服装が見える……アリアさんの服装は、白を基調として所々に赤色と青色が入っていて、少しだけ胸部が出ていたりミニスカートを履いていたりして、最初の方はちょっとだけ目のやりどころに困っていたけど、今では慣れてそんなこともなくなった。

 そんなことを考えながら、俺はアリアさんとの会話に意識を戻す。


「なんですか?」

「それはね────お出かけ!」

「……お出かけ?」


 予想外の言葉に、俺は素直に驚いていた。

 お出かけ……森とかで修行でもするんだろうか。


「あ!今どうせ、どこかに行って修行でもするのかな、みたいに考えたでしょ?」

「ど、どうしてわかったんですか?」


 図星を突かれ、俺は少し動揺する。


「やっぱり〜!今日はそういうのじゃないの!アディンくんいっつも修行修行って、たまの息抜きもしないんだから!そういうことだから、今日は修行じゃなくて、私と一緒にお出かけして楽しもうよ!」

「……」


 クエストにすら出させてもらえない俺が、遊んでいる暇があるのかと思うけど……なんでもすると約束したから、断るわけにはいかない。


「わかりました」

「そんな仕方なさそうにしないでよ!私だってもう一年もアディンくんの師匠してるんだよ?ちゃんとアディンくんに楽しんでもらうために、体を使う系じゃないけどモンスター対策の修行を考えてるから!」

「ほ、本当ですか!?」

「うん!」


 そういうことなら、アリアさんには感謝するしかない。

 お出かけで楽しみながら、モンスター対策の修行もできるなんて。

 俺はやっぱりアリアさんはすごい人だということを思いながら、ベッドを出てアリアさんと一緒に外に出る支度を済ませた。

 俺たちが今居るのは、冒険者ギルドのSランク冒険者用宿舎部屋で、宿舎という割には部屋全体がとても綺麗な場所となっている……まだ一度もクエストを受けていないEランク冒険者の俺がこんなところに居られるのは、アリアさんのおかげだ。


「準備できたね、じゃあ今から街に出て、お洋服屋さんに行こっか!」

「洋服店……わかりました」


 俺はほとんど行ったことがない場所で少し抵抗があったが、今日は行くしかないためアリアさんについて行って、二人で一緒に洋服店に入った。


「私、前から洋服買いたかったの」

「そうなんですか?アリアさん、日によって服違うイメージですけど」

「私のじゃなくて、アディンくんの!」

「俺の……?」


 俺はアリアさんに洋服店の中にある全身鏡の前に連れてこられた……それにより、俺は俺自身の姿を見る。

 黒髪黒目で、服装は白色と黒色の身軽な長袖と長ズボン。

 至ってシンプルな服装だ。


「ずっとアディンくんに洋服買ってあげたかったんだけど、アディンくん修行しかしてくれなかったから」

「なるほど……でも、洋服を買うなら防具を買った方が────」

「今は修行じゃなくて普段の服装の話なの!」


 アリアさんは大声を出してそう言った。


「す、すみません……でも、俺に似合う服なんてあるんですか?」

「あるよ!どんな服でも似合っちゃうと思う!」


 そう言うと、アリアさんは近くにあった服を三着取ると、それを俺に持たせて、試着室に入れた。


「試しにその三枚着てみて!」

「……はい」


 俺は試着室にあった魔術機を使って、遮蔽壁を張ると、その渡された服の一つ目を着てみる……一つ目と言っても、服とズボンのワンセットで一つ目ということで、その一つ目は膝上まである長い黒色のフード付きコートに黒ズボンで、その二つとも質が良く、服に詳しくない俺でもわかるほどに高そうな服だった。

 俺は魔術機の効果を切ると、アリアさんにその姿を見せる。


「着ました」

「か、かっこいい……!とっても似合ってるよ!買ってあげる!!」

「え?買うんですか?高そうですけど」

「私数少ないSランク冒険者の一人だよ?このくらいなんてことないよ!だから、他のも着てみて!」


 その後、俺は何着か着させられて、結局アリアさんは全て気に入ったということで、全ての服を購入していた。

 ……気になっていたことがあったので、アリアさんに聞いてみる。


「アリアさん……急かすわけじゃないんですけど、モンスター対策っていうのはいつぐらいにするんですか?もう日も落ちて来てるので、少し気になって」

「ちょうど今からするところだよ!アディンくんはこの試着室の前で待っててね!」

「わかりました」


 今から……ここでどんなモンスター対策ができるんだろう。

 アリアさんの考えが俺にわかるはずもなかったので、俺は大人しく試着室の前でアリアさんのことを待った……そして、服を持って戻ってきて言った。


「じゃあ、私この試着室で着替えるから、私が呼んだら遮蔽壁気にせずに試着室入ってきてね」

「はい」


 遮蔽壁は、見えなくなるだけで物質的なものではないので、そのまま入ることができる。

 その後しばらく待っていると「入ってきて!」と言われたので、俺はアリアさんの居る試着室に────


「どう?アディンくん」

「アリアさん!?な、なんですかその格好!?」


 アリアさんの格好は……かなり肌の露出が多いものだった。

 普段も少し肌を露出させているアリアさんだったが、今はそれ以上で、胸元の上半分は見えているし、その色白な脚もしっかりと露出されている。

 見えてはいけないところは隠されているが、それにしたって露出が多いことに変わりはなかった。


「この服装でも結構抑えてるんだよ?普通の洋服店に売ってる服だからね」

「そ、そうじゃなくて、モンスター対策って話じゃなかったんですか?」

「うん!だから今から、サキュバスの対策だよ!こんな格好で惑わせようとしてきても、魅了されたりしたらダメってこと!」

「じゃあ、今は平静を保つ修行ってことですか?」

「うん!」

「そ、そういうことなら……」


 俺はアリアさんの方をしっかりと見据えて、修行だと思い本気で臨むことにした……サキュバスといえば、その容姿で基本的には男性のことを惑わせて、魅了させてから生気を吸い取るモンスターだ。

 本当にサキュバスと戦闘になったら、きっとこんな感じで俺のことを惑わせようとしてくるだろう。

 だが、それに負けていては強くなることなんてできない。

 そう考えると、俺は落ち着いて────


「そ、そろそろいいかな!」

「……え?」


 俺があと少しで完全に平静になれそうだった時、アリアさんが顔を赤くしてそう言うと、体を手で隠し始めた。


「アリアさん?」

「アディンくんに体を長い間ジッと見られると、体が熱く……と、とにかく!もし続き修行したいなら、洋服屋さんじゃなくて宿舎でね!」

「え?わ、わかりました」


 今のでコツは掴めそうだったから続きは必要ないと思うけど、確かに今回はいい修行になったかもしれない。

 帰り際、ずっと落ち着かない様子のアリアさんと一緒に、俺は冒険者ギルドのSランク冒険者用宿舎部屋に帰った。

 ……今日は模擬戦で負けてしまったけど、もっと修行して、当面は剣術だけでもアリアさんに勝てるように頑張ろう。

 宿舎の部屋に帰っても落ち着かない様子のアリアさんと一緒に、俺はその日も一緒に過ごした。

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