魔法少女狩り
第19話 対
揺れる短冊と人々の群れを空から眺めて、コハクは一人、
「アイツ……! 何考えてんだこのバカッ!」
フウもフウだが、アイツもアイツだ。お互いの境遇を理解して、支え合う。そんな簡単なことすらも出来ずに、独りよがりな幸せの価値観を二人して押し付け合うばかり。そんなの、あまりに歪で、愚かで、やるせない。
もう、時間がないのに。言葉に出来ない怒りだけが、胸の奥に積もり積もっていく。
「はー、こんなことになるなら、やっぱり四六時中見張っておくんだった! ムカつく、あの時すぐに気づけていたら、ぶん殴ってでも止めたのに……」
飛び乗っている剣を強く握った、正にその瞬間だった。
「みーっけた」
遠くから放たれた水の矢が、間一髪で頬を掠める。鼻を微かにつく磯の香り。出所は、恐らく海近く。
「ヤッベ、外しちったか」
「何やってるんですの、フタバ。標的にバレてしまいましたわよ」
「わーってるって、ヒトハ
続け様に襲う無数の水滴を掻い潜り、手のひらに魔力を込めて加速する。
「っ、しつこい!」
空中で一閃、体を
そのまま、回転にまかせて炎を纏い、砂浜めがけて着地する。
「アンタ達……一体どういう神経してるのかなぁ? 魔法少女のくせに、アタシにちょっかい、かけてくるなんてさぁ!」
舞い上がった砂塵に紛れて、二人の魔法少女はコハクから距離を取る。
「おー怖い怖い。ブチギレじゃんか」
「ごめんあそばせ。ワタクシ達も、生き延びるために必死ですので」
溶けた氷の盾をかなぐり捨てて、重そうなドレスに身を包んだ魔法少女はカチリと眼鏡をかけ直した。
対照的に、水着のようにラフな格好をした魔法少女は、頭上のサングラスを外して不敵に笑っている。
「生き延びる? そうか、さてはアンタら……魔法少女狩りか」
魔法少女狩り。それは、シャドーではなく、同類である魔法少女から効率よく魔力を調達する者たち。要するに、使命を忘れたクズ共だ。
「アタシさ……今、すっごく機嫌悪いんだ。殺しちゃうかもだけど、別にいいよね?」
「フン、そっちこそ、死ぬ準備は出来てんの? 遺書でも書くなら今のうちだよ、おチビちゃん」
「……あっそ、じゃあ死ね!」
突き出した剣が氷の壁に弾かれ、甲高い音を立てる。
「ウザいなぁ! そんなに楽して魔力が欲しい? なら、まずはそっちの二人だけで殺し合いでもすればいいじゃん!」
「無理な相談ですわね。ワタクシ達は、二人で一人。決して離れられない運命なんですもの。妹の体を維持するためなら、誰に何と言われようとも、ワタクシは手段を選びませんわ。……それに、
「そーそー、つまるところ自業自得なんだよ。あーしらだって、こんなことしたくねーし……とりま、さっさと死んでくんない?」
回り込むようにして迫る水の弾丸を一歩踏み込んでかわし、壁を下から切り裂いて飛ぶ。
一人は仕留めたつもりだったが、氷の向こうまで刃がギリギリ届かなかったらしい。
体は、重力に抗えずゆっくりと落ちていく。
魔力が、圧倒的に、不足している。
『コハク、魔力の漏出が激しくなっている。逃げよう、逃げるんだ。このままでは……』
わかってる。
「キャハハ、偉そーな口きいてた割には死にかけじゃんウケるー! ねー、ヒトハ姉……。さっさとトドメ、刺しちゃいなよ!」
今の自分では、二人を殺すどころか、逃げることすらもままならない。弱っていく火力は、命の灯火そのものだ。そんなことは、コハク自身が一番良くわかっていた。
「どうか、地獄でも恨まないでくださいませ」
ヒトハは飛び上がり、氷の槍を静かに構える。確実に頭を狙った一撃。当たれば、即、終わり。
——だから、どうしたってんだ。
『ダメだ、コハク! それ以上は、魔核がもたない!』
最後の力を振り絞り、コハクは目の前の体に力一杯抱きついた。
「なっ」
加速する。空に向かって、残る魔力を燃やし尽くす。
「どうして……! 魔核は確かに、貫いたはずなのに!」
コハクはそこで、初めて自分の頭部が串刺しとなっていることを自覚した。魔核のヒビに偶然、槍が入り込んでしまったか。
でも、そんなことはもう、どうでも良かった。
「ヒトハねえ!」
過量な魔力の放出に耐えきれなくなった魔核は、崩壊を始める。
「もし、地獄で会ったとしても……恨みっ子ナシ、ね」
周囲を巻き込み、揺るがし、世界そのものが
「嫌っ! 離せ、離して! ヤだ、死にたくない、死にたくなっ——」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます