対策会議 その3
沙彩は返答に窮した。
正直なところ、話が急展開すぎて追いついてない状態なのだ。もちろん、現状のままでいるよりも動いた方が解決に近づくだろうというのは、頭では理解している。けれども心が、まだこの現実を受け入れたくないと思う心がそれを邪魔している。
どう答えればいいのだろうか。どう答えるのが正解なのだろうか。
皆の視線を一身に受けて、強張った口をどうにか開く。
「わ、たしは――」
「はいそこまで」
突然、口に少し硬めの肉球が押し付けられた。
それまで言葉を発しなかったクロエが、沙彩の膝に飛び乗って言葉を遮ったのだ。
「私は返答してほしいとは言いましたが、その場でとは言っていません。考える時間が必要でしょう」
「でも……」
「『
クロエがちらり、とカイリたちを見る。彼らは少しバツの悪そうな表情で、それでも確かに頷いた。
大きく尾を揺らし、クロエは満足そうに笑う。
「では、今朝の会議は一旦終わりましょうか。クラリスは議事録の作成を」
「了解です」
「エミリーとデイビットはこのまま業務へ。今日は何か行事はあったかしら」
「大きなものは、特には」
「俺は団体見学者の対応ですかね」
「わかりました。ではカイリ」
ひらり、と床に飛び降りて、クロエはカイリを指名した。
「あなたはサーヤさんを連れて、館内の巡回をするように」
「了解しました」
カイリの返事が合図となり、会議は結論は出されない状態で終了した。
***
「すみません、色々
カイリが眉を下げて謝る。
会議の後、改めてエミリーとデイビットから自己紹介があった。エミリーは岩石魔術を得意としていると言っていた。対するデイビットはカイリと同期で付き合いも長いのだそうだ。
二人ともが業務に戻った後、沙彩はカイリと共に一旦外へ出た。事務室にはクラリスとクロエが残っている。
やっと落ち着いた雰囲気で、沙彩は頭を横に振った。
「いえ……確かに展開が早いなとは思いましたけど」
「こう言ってはあれなんですが、よくあることなんです」
そのため、ある程度の内容は決まっていて、事案によって――例えば沙彩の場合ははぐれ召喚獣だということ――で細かく変更していくのだそうだ。
それは裏を返せば、何も知らないままでこちらに迷い混んでしまう人が多いということだ。昨日クロエも言っていたが、それが実情なのだろう。
カイリが左腕に「案内中」と書かれた腕章を着ける。そして、沙彩には「見学中」と書かれた腕章を手渡した。
「この腕章には防衛魔術が施されています。身に着けている間は、魔術による干渉はされません」
「それは、つまり……?」
「召喚魔術の上掛けはされないので、安心してください」
そういうことか、と沙彩は理解した。仮に今魔導図書館に探すべき魔術師がいたとして、そして沙彩のことに気がついて召喚魔術をかけてきても、沙彩の現状は変わらない。そういう安全が保障されているということらしい。
「わかりました。ありがとうございます」
素直に受け取って、カイリを真似て左腕に腕章を着ける。特に何も感じないが、言語魔術をかけてもらった時も目に見える変化はなかったので、そういうものなのかもしれない。
「では、館内の巡回に行きましょうか」
「……見学中と案内中ですけど」
「いいんです。館長はわざとああ言っただけなので」
それでいいのか、と疑問に思ったが、沙彩は黙ることにした。
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