対策会議

 魔導図書館の関係者専用の扉を潜り抜け、昨日も訪れた部屋に入る。昨日よりは冷静になった状態なので、見えていなかった部分も目に入る。

 クロエ曰く、この部屋は魔導図書館にある事務室のひとつであり、会議もここで行うとのこと。なるほど、既に長机が二台に椅子が四脚、机から少し離れた所に椅子か一脚。そしてホワイトボードが用意されていた。

 長机の方では、カイリとクラリスが既に着席していた。沙彩と目が合うと、お互いに黙礼する。加えて、見知らぬ人物が二人いた。一人は髪を後頭部で一つに結った女性、もう一人は長身の男性だろうか。

「揃っていますね」

 クロエが声をかけると、二人も沙彩の方を見る。二対の視線に肩が竦んだが、二人はそれ以上追求することはなかった。

 クロエは沙彩にカイリたちとは少し離れた席を案内し、自身はカイリたちの方へ向かう。

「では、始めましょう。進行はクラリス」

「よろしくお願いします」

 クラリスは手元の書類を読み始める。

「本日の議題は、昨日召喚されたはぐれ召喚獣の処遇及び今後の方針についてです。詳細はカイリから説明を」

「わかりました。はぐれ召喚獣――サーヤ・ミドーさんについてですが」

 カイリは昨日あった沙彩との出会いとその後の対応について整理して話す。沙彩が召喚獣であること、その術式が完成されていないこと、条件が揃えば元の世界に戻れること。改めて聞いても他人事にしか思えない。

 ある程度説明が終わったところで、女性が手を挙げる。

「いいかしら」

「どうぞ、エミリー」

 エミリーと呼ばれた女性が口を開いた。

「改めての確認なのだけれど、彼女が元の世界に戻るための条件を教えてもらえるかしら」

「はい。本来ならば時空間転移魔術で、すぐにでも出身世界であるニホンに送り届けることが可能です」

 ですが、とカイリは一旦言葉を切った。一度、沙彩の顔を確認し、再度報告を続けた。

「このままでは、彼女はということになります」

 その言葉に「あー」と男性が声を上げた。

「なるほどな。現状、召喚魔術の影響下にあるかもってことか」

「デイビットの言うとおりです。ミドーさんは不完全とはいえ、召喚魔術によってこちらの世界に召喚されました。魔術を介して魔術師との縁が結ばれた可能性は捨てきれません」

「その状態でニホンに戻ったとしても、その縁でこっちの世界にもう一回召喚されるかもしれないってことだな。んで、次には術が完成することも考えられるってか……」

 頭を抱えるデイビットの言葉に、沙彩は背筋が寒くなった。

 おそらく、この会議自体は沙彩に聞かせるために開かれたものだ。そして、すでに答えが出ていることをこの場で言語化することで、沙彩が理解できるようにしている。茶番かもしれないが、状況を把握するには手っ取り早いと言える。

 要は、このまま帰っても再召喚というリスクは残る。そして今よりも悪い場合に発展するかもしれないということだ。

 血の気が引いた沙彩に、全員が目を伏せる。その中でクラリスが、淡々と会議を進行していく。

「情報の共有が終わったところで、サーヤ・ミドー氏の処遇についてですが、カイリから提案があるとのことです」

 再度指名されたカイリが、今度は沙彩の方を向いて、口を開いた。

「僕からの提案は、ミドーさんに魔導図書館の臨時職員として働いてもらう、ということです」

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