召喚魔術 その2

「召喚紋?」

 聞き慣れない言葉に、沙彩は首を傾げた。頑張って小説や漫画、ゲームの知識を思い出すが、初耳の単語だ。

「ざっくり言うと、召喚獣の所有権を可視化したやつですね。『これは自分のものだ』ってわかりやすくした感じです」

「な……!?」

 驚く沙彩に、カイリが説明する。

「我々の世界では、召喚魔術を使用して喚び出した生物を『召喚獣』と呼びます。召喚魔術には主従をあらかじめ設定する魔術が組み込まれていて、魔術行使者が主、召喚獣が従者になるように自動変換されます」

 つまり、意思に関係なく魔術を使った者が主だと決定されているというわけだ。

「そして、召喚獣が他者の手に渡らないよう、すでに所有物であることを証明するために、召喚紋が身体のどこかに浮かび上がるようになっています。……よって、ミドーさんは召喚魔術でこちらの世界に来た召喚獣ということになります」

 カイリが非常に申し訳なさそうに告げたことで、沙彩は自分の置かれた状況を理解した。そして、沸々と怒りがこみ上げてくるのを自覚した。

「じゃあ、私が言葉もわからなくて気持ち悪くなって、家に帰れないのは、誰かの持ち物になっているからってことですか!」

「そうですね。現状は、ですが」

「ふざけないで! 何で私なんですか! 何も悪いことはしていないのに!」

「まあまあ、最後まで話をさせてくださいよ。救いはあるので」

 クラリスがのんびりと話に介入してきた。まだ怒りが収まらないが、沙彩も渋々黙る。

「ミドーさんの召喚紋をよく見てください」

 改めて、沙彩の左手首の紋を観察する。

 それは手首の内側――太い静脈が見える辺りにダイヤが四つ、花のように並んでいて外側を円が囲んでいる。その上から爪で引っ搔いたような線が二本走っている。

「……クラリス、これは」

「そうです。召喚紋は完成していません」

 二人だけで納得しているが、沙彩には何のことだかわからない。視線で訴えると、再びカイリが説明を始めた。

「召喚紋は基本的に円が閉じることで完成します。召喚紋が完成することで、初めて召喚魔術が成功したと見なされます。ですが、ミドーさんの場合は、本来の召喚紋の上に傷のような模様がついています。そのため、円が閉じていません」

「えっと、つまり……中途半端ってことですか?」

「この点から見れば、そういうことになります。断定はできませんが、条件さえ整えば元の世界に戻れるようにできると思います」

「この状態のうちに図書館側で保護できて良かったですよね。もし変な輩に捕まっていたら面倒でしたし。……あ、召喚紋も転記しておきますね」

 クラリスが小声で何かを呟くと、召喚紋の形に光が集まった。その形のまま書類に移動した。これが転記らしい。

 呆気に取られていたが、沙彩はあることに気がついた。むしろ、今の今まで説明されなかったことの方がおかしい。

「あの……ここはどこですか」

 カイリとクラリスが揃って「あ」と声を上げた。忘れていたらしい。

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