接触

 カイリはやもりさんの頭越しに見た相手に少し驚いた。

 一言で表すならば「若い人間」。思春期から少し脱却した辺りだろうか。服装から見るに女性だと思われるが、これは本人に確認しなければ判明しない。エミリーかクラリスに助力を乞うしかないだろう。

 それはともかくとして。

「えっと、お怪我はありませんか?」

 彼女(暫定)はとても怖がっている。おそらく――いや、絶対にやもりさんに怖がっているのだ。図書館に長く勤めている職員は平気だが、利用者の中には全力で逃げる相手もいる。表情は変わらないけれど、そういう時のやもりさんはしょんぼりしている。

「あの、やもりさんは襲わないので!」

「……×★×□?」

 カイリは表情を引き締めた。しかし想定内の出来事でもある。

 カイリの専門魔術は“言語魔術”。あらゆる言語に精通し、それを操る魔術。今では魔術に頼らずとも異国の言葉を介する人々が増えたため、需要が減り使える魔術師も限られるようになった“古魔術こまじゅつ”に分類されるもの。

 しかし、必要とされる場面はある。例えば“異世界出身者との交流”の際には必須な魔術でもある。

 カイリは事前に自動通訳の魔術を自身にかけている。相手が必ず自分の言葉を理解できる状態にするのだ。そうなれば何かしらの反応があるはずだと、彼は経験上知っていた。

 実際、目の前の人物はカイリの言葉に反応した。その上で新たに判明したのは“言語体系が全く異なる世界からの来訪者”だということ。通訳なしの状態ではカイリですら言葉が理解できない。

 やもりさんから降りると、カイリは相手から大股で一歩分の場所に立った。

「僕の言葉はわかりますね? 質問に答えてください。正しいときは丸、違うときはバツでお願いします」

 小振りなジェスチャーを交えて伝えると、相手は手で丸を作った。意志疎通はできていることが確認できた。

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