1章 魔導司書、異世界人と出会う

とある日の休憩時間にて

 ライオネル王国の王立魔導図書館には、今日も多くの利用者が来館する。

「すみません、召喚魔術の本はどこですか」

「それならこちらの書架ですね。ご案内します」

 利用者を案内してから、カイリ・ディケンズは首を傾げた。

 ここ数週間、召喚魔術に関する問い合わせが増えているような気がする。以前から人気がある魔術ではあるが、妙に引っかかる。

「そうね。確かに多い気がするわ」

「俺もさっき聞かれたけど、何か話題でもあったか?」

 休憩時間に同僚のエミリー・ストーンズとデイビット・レインに尋ねてみると、一様に疑問の声が上がった。誰もが気になっていたが、どうにも不可解だ。

 その中で、丸い眼鏡をかけたクラリス・サニーが思い出したように手を叩いた。

「そっちの界隈で、最近変なことがブームになっているって聞きました」

「え、何それ」

「婚活らしいです」

 一瞬無音の空気が流れ、誰ともなく「は……?」と困惑の声が上がった。

「どういうことなの……?」

「先日、ジェシー・ウォーロック氏が亡くなったじゃないですか」

「ああ、めっちゃ年の離れた奥さんがいるって話題になった」

「その人、旦那さんが亡くなってすぐに失踪されたんです」

「……事件ですか?」

「さすがに穏やかじゃないから捜査が入ったそうですが、そこで実は奥さんが異世界から召喚された人だって発覚したんだとか」

 クラリスの話の顛末に再度の沈黙が流れ、「ええ……」と全員が頭を抱えた。

「何してんの、あのおっさん」

「本人に悪気はなかったと思うけどね」

「確かにこの国の法律には『召喚された者との婚姻を禁ずる』という内容はなかったはずですが」

「まあ、当人たちにしかわからないことがあったとして、その事実を知った人たちの一部が再現を試みているらしい、という噂でして。……あくまでも噂ですよ?」

 クラリスは念押ししたが、これ以外に確定した情報がないのでカイリはそれを覚えておいた方がいいだろうと判断した。ポケット内のメモを取り出し書き込む。

「真面目だなぁ」

 デイビットが笑う。カイリはそれに苦笑する。

「仕方ないでしょう。これが性分なんです」

「性分というよりは、職業病な気もするけどな」

 そんな会話をしているうちに、休憩時間が終了した。

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