【カット分】一方その頃…②
※ルアライルーネの章のどこかです。
私は彼女が一時的に使っている客間を訪れていた。
彼女の鎖と手枷を外すためだ。
奴隷から解放することで。
オーンが試験的に彼女に料理させているのだろうことは分かってる。
でも、それはそれとして、いつまでも女の子に首輪と手枷を身に付けさせておくのはどうかと思ったの。
私も、きっと一歩間違えばそうなっていたと思うと、彼女を見るたびに、例え彼女が嬉しそうに笑っていても、その首輪と手枷が目について、素直に喜べなくなってしまうのよ。
良くないことだわ。健全とは言えない。
だから、無断だけれど、私の都合で外すことにしたのよ。
実際に取引を行ったのは私だから、行商人のワロンから彼女の身柄を引き継ぐ際に、所有権は私、ということになっているの。だから、彼を介さずとも、私の独断で彼女を解放できる。
……躊躇いが無かったわけではないのよ。ただ、私が感情を抑えることが出来なかっただけ。
悪い癖だと分かっていても、止めることはできない。
それが私の良いところだとも思っているから。
それに、彼ならきっと許してくれるわ。
彼だって、彼女を可愛がっているのだから。
隣人に首輪と手枷は必要無いわ。そうでしょ?
そんな風に私は私を勇気づけて、客間の扉を叩いた。
「はぁい!」
アナンタだ!と思って扉を開ける。
でも、こんな時間にどうしたんだろう?
お腹が減ったのかな?
「ちょっとお邪魔するわね」
「どうしたの?」
「んん、その、ルアラ、その首輪は重くない?」
首輪……?あ、そういえばそうだった。
私は奴隷で、アナンタに買い取られたことを思い出した。
だけど、それがどうしたんだろう?
「重くないよ?」
「そ、そう」
「魔族はみんな強いの。だから、大丈夫だよ?」
私がそう言ったら、困った顔で私を見上げてくる。
本当に、どうしたんだろう?
「アナンタ…?」
「いえ、ちゃんと言わないとダメよね。んん」
そうしたら、何か決めたような顔になって、アナンタは言った。
「ルアラ、奴隷から解放されたくはない?」
私はそう言った後、少し後悔した。
彼女が泣きそうな顔をしたからだ。
言い方が悪かったことに気付いて慌てて言い直す。
「違う!違うのよ!契約解除じゃなくて、私はルアラに……そ、そう!家族!ルアラと家族になりたくて、だから」
「……家族?」
「あ、ごめんなさい。急に変な話……ちょっと、ルアラ?」
ぽつりとつぶやいた彼女は、いつもみたいにいきなり私を抱きしめてきた。
でも、いつもの彼女じゃなくて。
彼女は少し震えていた。
「そっか、家族。アナンタと、オーンと……?」
「そ、そうね。きっとオーンもそう考えてくれてるわよ」
「うれしい」
そう言われて、私はようやく安心できた。
彼女は嘘は言わないもの。
そんなことはこれまで一緒に過ごした中で分かりきっていたから。
だから、彼女が声を震わせて泣いているのは、きっと、嬉しくて泣いているのよ。
この子は、今までどんな過酷な場所にいたのかしら。
……いつか、話してくれるといいのだけれど。
その後、私は彼女を奴隷から解放した。
奴隷契約書を破り捨てて、主が首輪に触れるだけ。
解放は何事も無く、あっけなく終わった。
「あ、えっと」
「こんにちは、ルアラ」
「あ……こんにちは!アナンタ!」
解放された彼女は、最初こそ戸惑っていたものの、私がいつも彼女と顔を合わせたときのように挨拶すると、はにかんだ笑顔で元気に返事を返してくれた。
こんにちは、は、私が初めて彼女に教えた人族語だったから。
その日から、私とルアラ、それとおまけにオーンとルアラは、また少しだけ親密になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます