【差分】旧版 - オーンの章 02

※加筆修正前のオーンの章です。読まなくて大丈夫なやつです。


 そんなわけでまずは基礎を作る。


 細かいことは分からないから、地面の中に棒状に寄せ集めた堅実けんじつ魔素まそいくつも立てて、今度は発動させる。


 重ねたり操ったりするだけなら魔素のままでいいが、物体を作るなら発動して現象を起こす必要がある。


 魔素は魔法の元だから、ある程度の形と密度にして魔力を呼び水に揺らしてやると、それにともなって現象が発生するわけだ。


 これが一般的には魔法の発動で起こるとされているもので、でも、現代では詠唱無しには発動できないとされている。



 だから、まぁ、俺独自の魔法__ルカナで基礎を作る。


 この方法だと、魔素の制御は自前でやるわけだから魔力の消費が圧倒的に少ない。詠唱すると魔力を引き抜かれる感覚があるのだとか。


 つまり詠唱が魔素の制御をしているんだと思っているんだが、それだけでは無さそうなんだよな……まぁ、今はいいか。


 そんなわけでものの数分で基礎が出来上がった。たいして疲れてもいない。楽勝だ。


 あとはこの上に屋敷を建てるわけだけど、そっちも大した手間じゃない。


 ただ、材料は必要だ。



 使うのは屋敷とは別の場所に作る地下シェルター分の空間を掘った時に出る土で。


 流石に建築初心者だから、自宅に地下を作るのは無しだ。いくら地震の心配がないとはいえ、ちょっと不安だからだ。


 それに土なら何処にでもある。取る場所にこだわる必要はないので、パパッと取ってきた。


 それもこれも、大気中に当たり前のように存在する浮動ふどうの魔素のお陰だ。

 これを使うと大抵のものは移動が簡単になる。村では使わないように苦労した。


 大量の土もこれを重ねれば水に浮かせたものを押して運ぶように、簡単に運べる。

 魔素はなんというか、存在する次元が違うような感じで、物体や空間に重ねることができるのだ。


 そうやって運んだ土は堅実のルカナを使って、箱状に整形してぽんぽんと置いていく。部屋割りは図面を書いて決めておいたから、後は作った部品を組み立てるだけだ。


 この羊皮紙もなぁ、旅商人から買ったんだが、法外な値段を払えと言われてなぁ。

 値切って値切って値切った末に、それでも高い値段で買ったんだ。

 あのニヤニヤ笑いが鼻につく商人め。これからでっかいの建てて見返してやるぜ。


 ……まぁ見せる機会はないんだけど。


 気を取り直して。

 1階は作業場や食堂、調理場、洗濯場...etcと生活に必要なシステムを。

 2階は自室と客間。3階は…何にも決めてない。また何か思いつけば、って感じ。


 積み重ねたら、浮動の魔素を重ねて運んだ土を境目に足して、堅実のルカナを使って結合する。


 1階は上に2段重なるから特に濃くした。

 魔素は濃度を高めると性質が強くなる。堅実だから、耐久性と硬度がさらに増したことになる。


 外見は土の色だが、岩盤並みになったんじゃないか?いや、それはちょっと言いすぎか。


 そんでドアと窓を作って、ガラスは無いから引き戸で開閉式だ。

 家具も無いけど、不便なら堅実でまた作ればいい。これは地面さえあれば幾らでも引き出せる。


 全部終わったと思ったら片っ端から『保存』していって…、そうやって俺はおよそ3日を掛けて屋敷を一通り作ることができた。


 早すぎるって?

 まぁ、魔素を直接使えるならこんなもんだ。

 それに、大概たいがい、『保存』の魔素の性質がぶっ飛んでるって話だ。まつられるだけあるぜ。


 シェルターも内壁を整えて部屋割りしただけで粗方あらかた完成だ。地下3階まで作った。

 あとは内装だけど……必要に応じてでいいだろう。



 そういうわけで必要に応じて。


 まず作るのはベッドだ。


 ここ数日の間は、床に堅実の魔素を重ねた大気をいて、『保存』を使い、寝た。

 自室は2階の予定だし、屋根も無く吹きっさらしだったから即席で作った、いつでも片付けられる……まぁ、寝袋みたいなもんだ。


 それでもまぁ、悪くはないんだ。悪くはないんだが…。


 なんかこう、パンパンに張ったエアマットの上で寝ているみたいでイマイチ寝心地ねごこちが良くない。


 ここ数日は即席で問題なかったが、これからは実際にここに住むわけだ。

 せっかくこんな豪邸を建てたのに寝心地悪いって何だ。というわけ。



 そこで、その改善をする。具体的にはモノを作る。


 使うのはもちろん土。というか土以外素材がないんだからそうなる。

 大気もナシではないのだが、一つ、決定的な問題がある。


 目に見えないんだ。


 俺も普段から意識して魔素を視ているわけではないから、気を抜くとうっかり踏んで滑りそうになる。

 そもそも、俺以外には見えない。もうこれは天然のトラップだ。


 それに、将来的に客が来たとしてだ。そこに寝てくれとこれを指さしてみろ?

 俺なら屋敷の主人を疑うね。こいつ床に寝ろとかマジか!?って。


 木を切ればいいだろ、という話だが、木は魔素で加工しづらいのだ。あれは道具で加工してナンボだ。

 そもそも形の決まった固体であるからして、削り出しと成形が必要になるだけでもうめんどくさい。


 それなら最初から特定の形のない土を使う方がいい。地面の表層は硬いが、下の湿った部分は形を変えやすい。そこそこ粘り気もあるしな。


 さて、土を使う理由はそれでいいとして、問題はこれをどうやって布団ふとんみたいにするか、ってところなんだけど。


 これは村にいた時にこっそり開発してある。

 村の寝苦しさは尋常じゃなかったからな。だって床に雑魚寝ざこねだ。


 しかも末っ子ですみに追いやられて、汗臭い体と壁の板挟いたばさみだった。

 それはもう、理想のベッドを考えるもんさ。


 そういうわけで、村の外で試作もしたものがある。

 寝心地も確認済みだ。


 だから、ちょっと手間は掛かるけど難しいことじゃない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る