【差分】07 アナンタの羞恥
目を覚ました。
私は……寝てたの?
と、そう考えて、湯浴み場の後の記憶が無いことに気が付いた。
まず起き上がり、頭を振り、記憶を呼び起こそうとして。
自分の服装が目に入った。
見覚えのない大きな服だった。
ぶかぶかで、首元から内側が見えてしまう程で、ズボンも両足を入れて腰まで引き上げたは良いものの、留めるものがなく、このまま立ったらずり落ちてしまいそうだった。
そして___思い出す。
立ち眩みがして倒れたことと、自分で着替えた記憶が無い事を。
「っ!?!?!?」
ヒュッと息を吸い込む。顔が一気に赤く染まるのを感じた。
つまり、つまりそれは。
トントン、と扉が叩かれた音に、私は跳び上がった。
そして、その次に言葉が口から飛び出した。
「まま、待って!入ってこないで!」
「お、おう」
部屋の外から、気まずそうな声が聞こえた。
それが、私の妄想を裏付けているようで。
完全に落ち着くまで、いいえ、完全には落ち着けていないけど、多少落ち着くまで、ずいぶんと長い時間がかかった。
「も、もういいわ」
「ん、じゃあ入るぞ」
そう言って入って来たそいつの顔は赤かった。
やっぱり、やっぱり見たのよ。間違いないわ。
「ねぇ………見た、の?」
「ふ、不可抗力だ。あのままにしてたら死んでた」
「……」
やっぱり見てた。見られてた。
それがとてもとても恥ずかしくて、顔がこれ以上ないほどに熱い。
「謝りなさいよ」
つい、そんな言葉が口から漏れ出る。
「わ、悪かった。ごめん」
「そ、それと!!」
今じゃないと聞けない。もうこれ以上先延ばしには出来ない。
そう思って、一番聞きたいことを尋ねた。
「下着、洗ったの?」
「いや?あの後の事故でそれどころじゃなかったからな。でももう色気もクソも無いボロき おごっ!?」
女心を欠片も分かってないヤツに膝蹴りをかましてやったわ。
いいところに入ったみたいね。
お陰で恥ずかしさも……まぁ、ちょっとはまだ恥ずかしいけど。
だいぶマシになったわ。
そいつはしばらく悶絶した後、顔を顰めながら言う。
「その服ぶかぶかだろ?上のシャツをこうやって端によせて、下のズボンをシャツの下に巻き込んで、シャツを結んでみろ。そしたらちょっとマシになるから」
「……こうかしら?」
言われた通りに結んでみる。
……うん。少なくとも、立って歩けるぐらいにはなったわ。
この格好で外に出るのは嫌だけど。
「そうそう。悪いが服が乾くまではそれで頼む。それとお前、昨日飯食い損ねたろ。魚焼いてあるから食え」
「え、いいの?」
今、魚と言ったかしら?
まぁ、こいつなら難なく採れるでしょうね。
私には無理だったけど。
「……お前今まで何食ってたの?」
「木の実だけど」
「ふーん。美味い?」
「……あんまり」
なぜかその後、憐れむような目で見られたので、蹴ろうとしたら避けられた。
「なんで避けるのよ!?」
「いや!避けるだろ!?避けちゃいけないのかよ!?」
「はー……はー……さて、魚はどこかしら」
「お前……いい性格してるよ」
「それはどうも」
「いや、褒めてねぇから」
蹴る避けられるを繰り返して、私たちは調理場のような場所に来ていた。
そいつはそこにつくなり、奥へと入って行く。
後ろをついて行けば、ほかほかと湯気を立てる魚がお皿の上に乗っていた。
「これ、食べていいのかしら?」
「どうぞどうぞ。俺はもう食ったから」
「……ナイフとフォークが無いのだけど」
「あ、そうか。ちょっと待ってろ」
そいつはそう言って外へと出て行ったかと思うとすぐに帰って来た。
「はいこれ」
色は薄い茶色ね。木ではなさそうだけど……まぁいいわ。
「……美味しい」
「そうか、良かったな」
「……うん。その、ありがと」
これが一日3回も食べられるなら悪くないわ。
ちょっとしょっぱすぎる気もするけど気のせいよね。
と、そう思っていると。
「ああ、それから、ようこそ、俺の屋敷へ。歓迎するよ、アナンタ。
俺を除けば初めての入居者になるか……これからよろしくな!」
と、不意打ちでそんなことを言うから。
「あ、えっと……よろしく、オーン」
嬉しさと、よく分からない気持ちで胸がいっぱいになった私は、やっとの思いでそう返した。
けれど涙が収まった後。
「門番いらなくなったわ。俺のルカナで出来るようになったし。お前クビな」
そう言われて、私は強制的に居候にされたのだった。
……納得いかないわ。
しかも、こんなことも言われたの。
「お前はしばらく、しっかり飯食って、散歩でもして、ゆっくり休んで体重戻すのを優先しろ。そうじゃないと危なっかしくて仕事も任せられないからな」
だってさ。
私は殺されかけたはずなのに、変なの。
だから、というわけではないけれど、しばらくは素直に付き従ってあげるわ。
有難く思うことね。ご主人様?
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