あとがき 石像のオオカミ、オオカミ?、終演

ここに『出立』という文がある。

あなたの読む「彼女」は最後にどうなっただろうか?


最後の結末は読み手であるあなた次第。と言いたいところだが、今回は特別に二つの結末を用意させていただいた。




まずは、「石像のオオカミが動いた場合」。


公園にある石像はオオカミかはわからない。しかし、あくまでも彼女はそれらを「オオカミ」として認識していた。

だから、噂も「石像(オオカミ)が動く」というものになる。

結果として、彼女はオオカミの群れに襲われるという結末を辿る。

オオカミは血に興奮する。彼女が生きて家に帰ることができるかは、運次第だろう。


彼女は生きた世界から「卒業」してしまった。旅立って「逝って」しまった。

そういう結末となるだろう。

生きて家に帰れたとしても、闇の中をオオカミの群れに追いかけられるという経験は彼女にトラウマを与えるだろう。その後容易く人生を歩けるとは思えない。







もうひとつは「オオカミが比喩であった場合」である。


始めは公園にある石像のことを説明している。この時点では石像はオオカミ「らしき」形となる。

だが、話が進んで思い出してほしい。彼女を追い込んだものは本当に石像であったのか。

オオカミの群れは文の最後まで姿を彼女に見せなかったのではなかっただろうか。暗い夜に灯りもない。彼女を追ったものはオオカミの石像なのか。


男はみんなオオカミなのよ。そういう比喩はご存知だろうか。


夜の公園にいたものが男の集団であったなら。

彼女を待つ結末は変わってくるだろう。


女にからむ男集団。夜間の遅い時間。暗い公園。

男は女を悪戯に追う。

怯える女に興奮する。怯える彼女に興奮する。破けるタイツに興奮する。

人気のない公園の奥へと、男たちは女を追い込んでいく。




その先は?




彼女は逃げ切れるだろうか。

それは難しい。

逃げ切れなかった彼女はどうなるだろうか。


家に帰れない。


強姦されるかもしれない。暴行されるかもしれない。

あげくに殺されるかもしれない。


男たちが彼女にすることは獣がするまさにそれだ。オオカミと何ら変わらない。


彼女は、逃げられない。


この場合、愚かにも最後に彼女が言う「卒業」とは学校教育の卒業と共に、処女喪失の可能性も含まれる。

彼女は悪い意味で大人にされてしまった。


家に帰ることができたとしても、彼女は無事でいられるだろうか。

男は自動販売機の光で照らされた彼女の顔を見ている。逃がしたとしても、公園の外まで追ってくる可能性もある。それも、逃げられた場合とわざと逃がした場合。そして、事後であえて逃がし脅迫するという場合。どれも無事ではすまない。







この二つの結末をあなたはどう思うだろうか。

あなたはどちらの結末を選ぶだろうか。


全てはあなたの解釈次第。


ただひとつ。これを伝えておきたい。

彼女の「卒業」は、彼女自身が望んだものと望まなかったものがある。

それを、読者であるあなたに伝えておきたい。




卒業の日。新たな旅立ちの日。

その日、その夜、彼女が旅立ったのは希望と光に溢れた未来へと向かう生の世界だったのだろうか。

それとも、恐怖の末に穢され辱しめられ食われた先にある暗い死の世界だったのだろうか。







夜の闇にオオカミの遠吠えが木霊している。




これにて終演なり。

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出立 犬屋小烏本部 @inuya

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