第13話 その叫びは虚しく木霊する

 勇者ショウ。翔ちゃんと同じ顔に、似たような名前。

 それは私と魔王アイラの関係と全く一緒で。でもやっぱり、信じたくない。

 だって、翔ちゃんが、私と敵対する勇者の生まれ変わりだなんて——!


「愛奈、俺がアイツを引きつける。その間に逃げるんだ」

「えっ……」


 戸惑いながらも私が立ち上がると、私の方は振り返らずに翔ちゃんが言う。……そうか、翔ちゃんは私が魔王になった事を知らないから……。

 でも、どうすればいい? 私がダンタルクさんを止める? あれだけ怒ってるのに、私の言葉が届くの?

 ……ううん! 例え翔ちゃんが勇者の生まれ変わりでも、ここで殺させる訳には絶対にいかない!


「ダンタルクさん!」


 痛いのを我慢して、怖いのも押し殺して、私は今にも暴れ出しそうなダンタルクさんに駆け寄った。そしてその大木みたいな胴体に、全力で抱き着く。


「愛奈!?」

「お願いダンタルクさん、今は落ち着いて……! ま、魔王の、私の命令です!」

「っ! ア、アイラ様……」


 抱き着いて注意を引いたのが良かったのだろうか、ダンタルクさんは私の呼びかけにちゃんと反応を返してくれた。まずは、その事にホッとする。


「愛奈、お前、何言って……」

「わ、私達がここに来たのは生き残りの捜索の為で、戦いの為じゃないはずです! 違いますか!?」

「……それは……」


 ダンタルクさんを止める為に口から出たそれは、言葉にしてみると、まさしく真実だった。今私達がやるべきなのは生き残った子供達を保護する事で、残っていた人間達と戦う事じゃない。

 そうだ、やるべき事を忘れちゃダメだ。翔ちゃんに会えたのは確かに嬉しい。けど、翔ちゃんが勇者なら、今は一緒に行く事は出来ない……!


「おい、愛奈、一体何がどうなって……」

「勇者様、今の雄叫びは……!?」


 この状況に困惑する翔ちゃんが口を開きかけたその時、さっき翔ちゃんが追い払った二人が走って戻ってきた。そしてダンタルクさんを見て、途端に顔色を変える。


「あ、あれはまさか……『鮮血の牡牛』ダンタルク!? 何でこんな領地の端なんかに……!」

「勇者様、逃げましょう! 今のあなたが敵う相手じゃありません!」

「なっ、オイ、離せっ! まだ愛奈が……!」


 そう言って二人が、翔ちゃんの両腕を掴み引きずっていく。さすがの翔ちゃんも大人の男二人がかりではどうしようもなく、抵抗するも呆気なく引きずられていく。


「……愛奈! 必ず強くなって、お前を助けに行くから……!」


 その叫びを最後に。翔ちゃんの姿は、廃墟の向こうに消えた。

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