第11話 思いがけない再会

「おいお前、魔族に攫われでもしたのか? 随分上等な服を着てるが」

「え、えっと……」


 怪訝そうな二人に問われて、固まる。……どうやら二人とも、子供達の存在にはまだ気付いてないみたい。

 だったらこのまま普通の人間のフリをして、この人達を引き離した方がいいのかも……。


「ん? その木の陰にいるのは誰だ?」

「!!」


 そう思ったのも束の間、一人がそう言って私の背後を覗き見る。……しまった、見つかった……!


「ヒッ……!」

「おい、見ろ! 魔族のガキが生き残ってた!」


 二人は子供達を見た途端、とても怖い顔になる。それを見て私は、背筋が凍りそうになった。

 予想はしてた。でも改めて実感した。この人達は……こんな小さな子達までも殺す気なんだ……!


「殺せ! 魔族なんて、根絶やしにしてやる!」

「……! だ、ダメっ!」


 反射的に私は、子供達を庇うように両手を広げ、二人を阻んでいた。そんな私に、二人が苛立った視線を向ける。


「どけ! 何のつもりだ!」

「こ、こんな子供達まで殺す事ないじゃないですか! もう十分に殺したでしょう!?」

「今はガキでも、デカくなればいずれ人間を襲うようになる! 今のうちに殺しておくのがいいんだよ!」

「そ、それでもダメですっ……!」


 必死で説得を試みながら、体の方は、ガクガクと強く震えていた。だって、怖い。一歩間違えれば、私も殺されるかもしれない。

 でも、それでも、どうしても。この子達を見捨てるのだけは、絶対に嫌だったのだ。


「クソッ、どけっ!」

「きゃっ!」


 怒りを滲ませた一人が、業を煮やしたのか、私を強く突き飛ばした。その衝撃に、私は呆気なく吹き飛び地面を転がる。


「お姉ちゃん!」

「フン、俺達の邪魔をするからだ!」


 そう吐き捨てて、二人が子供達の方へ向かっていく。私は力を振り絞り、激しく痛む体を起こしてその足に飛びついた。


「何しやがる、離せ!」

「イヤ! 離さない!」


 自由な足が、容赦なく私を踏み付ける。痛い、痛い。涙が溢れて止まらない。

 でも、それ以上に怖い。私が足掻く事を止めた事で、あの子達が死んでしまうのが怖い。

 例え自分が死んでしまうかもしれなくても、あの子達を見殺しにする方が、ずっとずっと怖い——!


「っ、これ以上邪魔するなら!」


 どれだけ蹴られても離れない私に、二人は遂に剣を抜いた。その無慈悲な輝きにヒュッと喉が鳴り、奥歯がガチガチと鳴る。

 ごめんなさい、ダンタルクさん。ごめんなさい、ルルベル。私、ここまでみたい。

 翔ちゃん、最後に、もう一度あなたに会いたかったよ——。


「何をしてる!」


 固く目を瞑り、死を覚悟した時だった。そんな声が、突然辺りに響いたのは。

 それは聞き覚えのある声で。ずっと聞きたかった声で。でも同時に、聞こえるはずのない声で。

 ああ、ああ、でも、これは。


「……翔、ちゃん……?」


 見上げた先、男達の向こう側、そこに。

 彼は。硲翔太郎は、確かにいたのだった。

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