第10話 無力すぎる私
耳を頼りに、私は泣き声の元を探す。泣き声はだんだん大きくなってきて、自分の進む方向が間違ってないのが解った。
そして。
「……おとぉさん……おかぁさぁん……」
「……いた……!」
木の根元に空いた穴に隠れるようにして、頭に二本の小さな角が生えた子供達が泣いていた。兄妹なのか、男の子が自分より小さい女の子をギュッと抱き締めている。
「き、君達……!」
「!!」
思い切って声をかけると、二人は泣くのも忘れたように、びくりと震えて怯えた目を向けた。……そうだよね。だって私は、人間なんだもん。
「く、来るな! 人間!」
向けられるのは、強い拒絶と恐怖の視線。きっと平和に生きてきた私には想像もつかないような地獄を、この子達は見たんだろう。
でも、私は。どんなに逃げ出したい現実でも。
今だけは。今この時だけは、絶対に逃げたくないんだ。
「聞いて!」
「!!」
勇気を振り絞り、声を張り上げる。二人の体が、また大きく震えた。
「私は人間だけど、他の魔族と一緒に、あなた達を助けに来たの!」
「う……嘘だ! そう言って、おれ達も殺す気なんだ!」
男の子の方がそう叫び、妹を庇うようにして強く抱き締める。こんな小さな子達がこんな事を言うようになってしまった事実が痛くて痛くて、胸に重くのしかかる。
「違う、見て! 武器なんて持ってない!」
「信じられるか! すぐ側に仲間がいるかもしれないじゃないか!」
それでも負けずに声を張り上げるけど、二人はますます警戒するばかりだ。私はどうしていいか解らなくて、ただ胸の辺りを強く握るしか出来ない。
二人を助けたい。なのに、その為に何をするべきか解らない。
ダンタルクさん達を呼びに行く? でも、その間に二人は逃げてしまうかもしれない。先に声をかけた事を、今更ながらに後悔した。
……やっぱり私は、この世界で何も出来ないの……?
「おい、こっちから声がしたぞ!」
その時だった。後ろから、人の声がしたのは。
良かった、ダンタルクさん達が戻ってきたんだ。これで、この子達は助かる……。
そう、思ったのも束の間。
「何だ……女?」
「!!」
出てきたのは、本で出てくるような槍を持った二人組の男の人。最初は助かったと思ったけど、すぐにそれは間違いだと気付く。
だって、その人達は。服装こそ見慣れてないものの、咄嗟に助けだと判断してしまうくらい馴染みのある姿で。
そう、つまり。
「……人間……!」
その事実が、脳に染み渡った瞬間。私の体も、思考も、ピタリと動きを止めていた。
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