第9話 突きつけられた現実

「……」

「……」


 私もダンタルクさんも、さっきからずっと何も喋らない。小型の竜に乗っての移動は本当ならとっても夢みたいな体験だけど、楽しむ余裕も怖がる余裕も今はない。

 私達は今、人間に襲われたという村に急いでいる。本当はすごく怖かったけど、頼んで一緒に連れて行ってもらった。

 だって、私はまだ何も知らない。この世界の人間の事も、魔族の事も。

 これからどうするのか、私に何が出来るのか。この世界の怖くて見たくないようなところもちゃんと見なきゃ、見つからない気がするから。


「……そろそろ、報告のあった村に到着します。くれぐれも、ワタクシから離れぬようお願いします」


 固い声で、私の後ろで竜を操るダンタルクさんが言う。それを聞いて、私はまた大きくツバを飲み込んだ。

 ……怖い。けどここまで来たら、もう逃げられない。

 目を逸らしちゃダメ。この世界で何が起きてるのか、ちゃんと見届けるんだ……!

 やがて、竜がゆっくりと下に降りていく。私は間違って落ちないように、しっかり竜の首に掴まった。



 降り立った村は、地獄という言葉が相応しいように思えた。

 すっかり燃え尽き骨組みだけになった家、辺りに漂う濃すぎる血と灰の臭い。

 テレビのニュースで、戦争や内戦で破壊された街を見た事はあった。でも目の前に広がる光景は、その何十倍も酷くて。

 何より、辺りに点々と転がっているもの。きっとここがこうなる前は、普通に生きていただろうモノが。


「……うっ……」


 喉から熱くて酸っぱいものが、一気に込み上げてくる。ダンタルクさんが私の顔色を見たのか、気遣うように肩に手を置いた。


「……アイラ様はお下がり下さい。我々は、生き残りがいないか捜索して参ります」


 その言葉に何とか頷き返すと、ダンタルクさんは一緒に来た兵士達を率いて村の奥へと進んでいった。私はそれを見届けるのもそこそこに、近くの焦げた茂みに顔を突っ込み今度こそ吐いた。


「ゲエッ! ゲホッ、ゲホッ……!」


 胃の中が空っぽになって、吐くものが胃液だけになって。それでもなお、吐いて。

 苦しくて、辛くて、その感情が容赦なく私に告げる。「これがお前の知りたがっていた現実なのだ」と。

 涙が出た。帰りたい。でも帰り方なんて解らない。

 無性に翔ちゃんに会いたかった。目の前で、思い切り泣きたかった。

 でも、でも。そんなのは、今はどうやっても叶わないんだ……。


「……ぐすっ……」

「!!」


 その時誰かがすすり泣く声がして、私はバッと顔を上げた。私の声じゃない。もっと小さい子供の声。

 もしかして……生き残りがいる!?

 そう思った瞬間。私は唇を拭い、ふらつきながらも泣き声を目指して走り出した。

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