第6話 とりあえずの方針を決めよう

「先程は大変失礼致しました、魔王様! まさかあなた様が、魔王様であったとは知らず……!」


 私の世話役として連れて来られ、早速の再会を果たしたルルベルは。深々と頭を下げ、私にそう言った。


「あの、顔を上げて、ルルベル」

「魔王様に対しての非礼の数々、いくらお詫びしても足りません! かくなる上は、私の命をもって償って……!」

「ちょっ、落ち着いてったら!」


 とんでもない事を言い出すルルベルの肩を、慌てて掴んで制止する。そこでルルベルはやっと顔を上げ、こっちの話に耳を傾ける気になったようだった。


「……あのね、魔王の生まれ変わりってダンタルクさんは言うけど、私には魔王の記憶は全然ないの。本当に、突然連れて来られただけなの」

「魔王様……」

「だからルルベルには私の事魔王じゃなくて、ただの愛奈として接して欲しい。……嫌?」


 願いを込めてそう言うと、ルルベルの目が迷うように私を見た。そのまましばしの沈黙が、辺りに流れる。


「……解りました」


 やがて。ルルベルは、そう言って微笑んでくれた。


「あなたが、そう望むのであれば。配下としてではなく、この世界の先輩として、魔王様の……いえ、愛奈のお役に立ちます」

「ルルベル……ありがとう。嬉しい」

「いえ。……先程も今も、愛奈はとても心細そうに見えるので。私の振る舞いで、少しでもお心を軽く出来るなら」


 その答えに、何だかすごく安心する。やっぱり魔王としてより、普通の女の子として扱われた方が気持ちは圧倒的に楽だ。


「あの、それじゃ早速聞きたい事があるんだけど」

「はい、私に答えられる事でしたら」

「魔族の事、もっと私に教えて欲しいの」

「魔族の事……ですか。そうですね……」


 私の問いに、ルルベルは少し考え込む仕草を見せる。そして、ぽつぽつと語り始めた。


「魔族、と一言で言っても、種族は様々です。ダンタルク様と私は、その中の獣人族にあたります」

「確かに二人とも、二足歩行の動物って感じだよね」

「他にももっと人間に近い種族もおりますよ。まあ人間との見分けは、肌の色などですぐにつきますが。ですから愛奈のような人間が魔族の領土にいると、とても目立ちますね」


 そう告げられ、私はまた不安になる。翔ちゃん……無事なの……?


「そういえば……ルルベルは人間にも、普通に接してくれるよね? どうして?」


 不安を抑え込む為に、気になっていた質問をぶつける。するとルルベルは、少し困ったように笑った。


「そうですね……人間にもいい人間と悪い人間がいると、身をもって実感したからでしょうか」

「どういう事?」

「私は人間に住処を奪われました。ですが傷付いた私を助け、魔王城に保護されるきっかけをくれたのもまた、人間だったのです」


 告げられた言葉に、息を飲んだ。……ルルベルに、そんな過去があったなんて……。


「ですから人間も私達も、人それぞれなのだと思います。魔族にも他の弱い種族を虐げる、傲慢な種族がおりますし」

「……ルルベルは、強いんだね」

「そんな事はありませんよ。ただきっと、愛奈より少しだけ、経験した事が多いだけなのです」


 そう微笑んだルルベルに、胸が熱くなる。……少なくとも私が魔王として頑張れば、ルルベルの為にはなるのかな。

 ダンタルクさんだって、私が大人しく魔王をやればきっと、翔ちゃんを探すのを協力してくれる。……そう、信じたい。

 怖いけど、不安な事ばかりだけど。帰る方法が今のところ解らないのなら、覚悟を決めるしかないのかもしれない。


「ありがとう、ルルベル。もっとこの世界の事を聞いてもいい?」

「ええ、喜んで。良ければ愛奈の暮らしていた場所の話も、私に聞かせて下さい」


 そうして私達はしばらくの間、取り留めのないお喋りを続けた。

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