第4話 私の知らない私の話
「それにしても、人間の方がこの魔王城にいるなんて珍しいですね」
歩きながら自己紹介を済ませた私達は、そのまま雑談に入った。女の子の名前はルルベルと言って、半年前ぐらいからこの魔王城で働き始めたのだそうだ。
「そ、それが、目が覚めたら突然ここにいて……」
「そうですか……それは心細いでしょう。私でよろしければ、何でもお力になります」
そう言って、ルルベルは優しく微笑んでくれる。その温かさに、私は、ほんの少し泣きそうになった。
「それにしても、愛奈様」
「愛奈でいいよ。私達、多分同じくらいの歳でしょ?」
「では愛奈、偶然ですね。魔王様と似た名前の方が、この城にいらっしゃるなんて」
けどそう言われて、ちょっとビクッとしてしまう。……どうやら私がその魔王、らしい事には気付いてないみたいだけど……。
「ルルベルはその……魔王様の事はどこまで知ってるの?」
「そうですね、魔王様がご存命だったのは私が生まれる前の話ですから。伝え聞いたお話だけで、実際には一度もお目にかかった事はありませんね」
なるほど、だからルルベルは私に普通に接してくれるんだ。その事に、ちょっぴり安心した。
「……魔王様って、どんな人なの?」
「愛奈は魔王様の事を、全くご存知ないのですか?」
「うん、わ、私……すごく田舎の生まれだから」
「そうなのですね。ああ、だから人間なのに、私達魔族にも普通に接して下さるのですね」
微笑むルルベルに、曖昧に頷く。……そういえばダンタルクさんが、魔族は人間に迫害されてるって言ってたような……。
魔族と人間って、仲が悪いのかな? ……だとすると、魔王の生まれ変わり?らしいとは言え、人間の私がこのお城をウロウロするのってとっても不味いんじゃ……?
「魔王様の話でしたね。かつての魔王であるアイラ様は、とても聡明で、心優しい方だったと聞きます。それまで無秩序に暴れ回るだけだった魔族達をまとめ上げ、秩序を築き、人間に対抗し得るだけの戦力を育て上げた方だと」
「そ、そうなんだ……」
そう不安になりながら、語られる魔王像に耳を傾ける。……魔王とは言うけど、何だか話を聞く限りはそんなに悪い人って感じはしない。
むしろとってもすごい人のような……。そんな人の生まれ変わりが私って、本当なのかなあ……?
「魔族達を率いた魔王様は、人間の軍勢と激しい戦いを繰り広げ……最後は人間側の勇者と一騎討ちをし、相討ちになったのだと聞いています。そして互いに核になる人物を失った両陣営は、長い休戦に入ったと」
「相討ち……」
そして告げられた魔王の最期に、私は思わず息を飲んだ。相討ち……改めて聞くと、背筋がゾクッとなる……。
どんな激しい戦いだったんだろう。平和な日本で育った私には、想像もつかない……。
「でも魔王様は、いつか必ず復活を果たす」
そう思っていると、不意にルルベルが言った。
「必ず復活を果たし、また昔のように私達を導いてくれる。……私達は、そう信じているんです」
その曇りのない笑顔に、またちくりと胸が痛む。……だって、私は、どう考えたってそんなすごい人じゃない。
私は普通に生まれて普通に育って、勉強も運動も人並みで……好きな男の子に、告白一つ出来なくて。そんな私に魔族を導くなんて、そんなすごい事が出来るなんて思えない。
今だって、全部放り出して逃げようとしているのに。何でそんなに真っ直ぐに、魔王を信じられるの——?
「さ、お手洗いにつきましたよ。お部屋には戻れそうですか?」
「う、うん、ありがとう……」
「いえ、当然の事をしたまでです。良ければまたお話しましょうね、愛奈」
そう頭を下げて去っていくルルベルを、私は黙って見送る事しか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます