二匹目:人の為のチョウの話
ある日突然、こんな声が聞こえた。
「こんにちは!なんか不幸そうですね!でも大丈夫!そんな不幸なあなたに、今から私がついて、幸福にしてあげま〜す!」
…あまりの言いように僕は顔をしかめた。
周りを見渡したが、誰もいない。
(なんなんだ?今の…。)
もしかしたら、テレビの音かもしれないと思った。
「あれ?聞こえてますよね?さっきキョロキョロしていたあ・な・た。ですよ?もしも〜し。」
(え?僕だよね。でも姿は見えないし…。)
そう思った僕の頭脳(IQ自称340)はある一つの結論を弾き出した。
(うん、これは幻聴だ。勉強に疲れた僕は、疲れのあまり異世界マンガと同じような立場の妄想をしているんだ。)
「あれ〜?なんで答えないのかな?もしかして幻聴だと思ってませんか〜?」
なんだかんだ言って僕は幽霊とかそこらが大嫌いだ。
だから僕は家に逃げた。
僕は家に着くと、僕はただいまも言わずに自分の部屋に駆け込んだ。
それまで声が聞こえなかったわけではないが、家に帰れば平気だと本能的に僕はわかって…。
「なんで急に走ったりしたんですか?無駄に疲れるだけですよ?」
…前言撤回。普通に聞こえました。
(なんなんだコイツ。いや、これは幻聴なんだ。気にしてはいけない。これは幻聴。ゲンチョウ…。)
「もう一度言っておきますが本当に私は幻聴なんかじゃありませんからね!」
「だったらなんなんだよ!」
(はっ…。思わずつっこんでしまった。)
「よくぞ聞いてくれました!私は妖精です!しかも幸福の妖精!あなたは私と一緒にいるだけで幸せになれるのです!」
(何を言っているんだ…?)
「とりあえずあなたは私を認知したと言うことで良いですかね〜?ああして話してくれたのですからね〜。」
「そう言うんだったら姿ぐらい見せろよ。妖精っていう証拠はどこにあるんだよ。」
姿が見えないからか、僕はいつもよりも強気だった。
「いや〜。私まだそっちの世界に行くための準備ができてないので、明日明後日でも大丈夫ですか?大丈夫ですよね。はい。大丈夫ですね。じゃあ私は明後日、この部屋に現れたいと思います!それまでは声だけなので、そこのところよろしくお願いしますね!そっちに行ったら私になんでも好きなことして良いですからね〜。」
「はあ…あんたには何ができるんだ?幸福幸福って言ってるけど。」
「う〜ん、例えば道に500円玉が落ちてるとか?あとは…え〜と…。」
コイツは使えないやつだな。IQ340の僕はそう考えた。
「あ!そういえば新種の蝶を見つけた人もいましたね!最近ちゃんと登録された純白の白骨蝶というやつですね。」
「白骨蝶って今まで行方不明になった人たちの元に警官を導いたっていうあの蝶か?良いなあ。俺もそんな綺麗で特殊な蝶と会ってみたいなぁ…。」
「あ、多分会えると思いますよ。多分。というか蝶が好きなんですね。なんだか意外ですね〜。」
(…なんだかコイツの口調にもイライラしてきたな。)
そう思いながら壁にかかった大量の蝶の標本を眺める。もちろん、自分で作ったものだ。最近また新しいのを作りたいとは思っているが、近所の蝶はもう取り尽くしてしまって、ここ2年くらい蝶を見かけなくなってしまった。
そう考えていたら。
ひらり。
そんな音が聞こえるように1匹の蝶が窓から部屋に入ってきた。
「あ!あれはミヤマシジミ!日本ではすごく珍しい蝶だよ!」
「早速蝶を見つけたんですか!すごいですね!でも既存種ですけどいいんですか?私としては納得できないんですけど。」
「いやいや!これで十分だよ!この青い翅の輝き。その周りを縁取る柔らかい純白。そしてその裏側を彩る白とオレンジの中に混ざった黒の鮮やかな模様。はああ〜、これは本当に貴重な芸術だよ〜。」
(前に一度友達が捕まえたらしくて、もらったんだけど、自分で捕まえるのはやっぱり感動が違うなぁ…。)
「…その言い方、リアルで引きます。」
「え?ちょっと引かないで?普通にこれ感想なんだから。」
そう言いながら僕は机の中から展翅板や留め針、展翅テープといった標本を作る為の道具を取り出した。
「感想って割には翅のことしか言ってませんね。翅以外に興味のある点はないんですか?」
痛いところをつかれてしまった。
「え?う、うん。ま、まあ他にもいいところとかあると思うけど?翅が一番特徴的だからさ。」
「ふ〜ん…。別にいいんですけど。」
なんか呆れられたらしい。
だけど、僕はそんなことも気にせずに標本作りに勤しんだ。
次の日、学校に行くと早速運の良いことがあった。
ちょっとしたことなのだが、前に無くした本が机に入っていたのだ。
「おおお!この本。無くしたと思ったのにあったぞ!」
僕はそう友達に伝えた。
「おお!良かったじゃんか。次は気をつけろよ。」
「おう。」
良いことと言ってもちょっとしたことばっかりだったが、それでも僕はちょこちょこ嬉しくなり、その日は気分が良かった。
その時、あの妖精の声が聞こえた。(まぁ授業中もずっと聞こえていたのだがずっと無視をしていた。)
「ね?良いことあったでしょう?」
「まあな。一応言うが、授業中には話しかけないでくれ。気が散る。」
「はいは〜い。わかりましたよ〜。そういえば!明日はそっちの世界に行けそうですよ!喜んでください!」
(声だけでもこんなに厄介なのに喜べるわけないだろ!)
僕はそうつっこみたかったが、なんとかその言葉を飲み込み家へ帰った。
また次の日、学校へ行くと思い早く起きたが、土曜日だと言うことをすっかり忘れていた。
僕はイライラしながら制服から普段着へと着替える。(間違えて着てしまったのだ。)
そんな時またあの厄介な声が聞こえた。
「今日行きま〜す!今から行くので菓子折りよろしくお願いしま〜す!」
「はぁ?今かよ!ってもう来てんじゃん!」
(菓子折りの準備する時間さえもくれないってか?まぁ元から用意はしないつもりだったんだけど。)
妖精は一言で言うと輝いていた。壁に飾ってあるどんな蝶よりも。
その翅は薄いピンクと水色のグラデーションだった。
仮にも僕は蝶がこの世で一番好きな男子だった。
「おい、こっちに来たらなんでもするって言ったよな?」
「はい!なんでも!あなたが幸福になれるのなら!…えっちなことはダメですよ…?」
「そんなことするわけないだろ。ちょっとそこに寝っ転がってくれるだけで良い。」
そう言われて彼女は僕に言われたところに寝転がった。
僕は彼女にハサミを持って近づいていく。
「え?え?ちょっと!何?何?や、やめてください!やめて!」
僕は彼女の羽をハサミで丁寧に切り取っていく。
「お願いです!なんでもしますから!あ…!」
綺麗な羽がどちらも切り取られ、彼女はただの小さい女の子になった。
「あぁ…。この羽の艶、輝き、色彩。どれも最高だ!ありがとう!とても良い物だよ!本当!君に会えて幸せだよ!」
「あ…。え…。そうですか?それなら良いや。あなたが幸せなのならば。」
僕たちは二人、笑い合った。
真っ白な蝶が、窓から入ってきたがそんな二人を見ると、どこか悔しそうに宙を回って、また窓から出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます