第11話

身体と名前を借りたもうここには存在しないはずの少女が自分の身体を介して顕現した。

「私はこの人に救われたの、この人のおかげで私は今ここにいられるの、だからこの人に私を貸したの」

まるで別人のように喋る、こんなにもしっかりと喋ることが出来た子だったのか、と疑問すら抱く。

「待ってくれ、救われた?ここにいる、私を貸した?どういうことなんだ、じゃあ、ミアは生きているのか…?」

震えた声で、今にも消えそうな弱い音で囁く。

その姿はほんの僅かな希望に縋るようにも、最悪を認めてなるものかと抗うようにも見えた。

「私はもういないの、死んじゃったから」

「けど、けれどミアはここにいるじゃないか!今もこうやって話せているじゃないか!」

下手なことを言えば、真実を知ってしまえば消えてしまう、そう思いながらも分からないことが増える。

カナもルナもタカも、母ですらも何か言いたげな顔をしては口をきゅっと結ぶ、手をぎゅっと握る。

「いるよ、私はここに、けれど今だけがいるのは、いられるのは今だけなんだ」

何を言えばいいのか、何を言ったらいいのか分からずついに父親も口が開かなくなる。

「さいごのおわかれ、いいにきたんだ」

幼い口調に幼い声、暖かな家族の声、溶けるように甘い奇跡、けれど終わりを告げる。

「わたしね、にげたの、こわくてこわくてこわくて、いっぱいにげたの、にげて、にげて、にげて、にげて、にげたの。そうしたらいつのまにかにげられなくなっちゃったの」

この集落が襲われたのは今日が初めてではなく、幾度もあった、その時1人だったミアは彼らに追い回された。

小さいが故に、草木が生い茂っていが為に、ミアほ逃げ切ることが出来た。

しかしその代償に少ない体力のほぼ全てを使い果たした。

そうして、名もない、姿もないただ創造しては破壊するだけの概念と出会う。

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