第10話

他人の父親に永遠と勘違いされ続ける、これをどうしたものか。

ミアは初めて混乱を覚えた!

「お父さん、この子はミアじゃないわ」

静かにそう告げる母、それでも信じない父。

「だって姿形がまるっきりミアそのものじゃないか!」

この世には自分と同じ顔をした人間が3人という言葉があるがまだこの時には無い、故に本人以外とは考えない。

「なあ!カナ!ルナ!タカ!お前たちもそう思うだろ!?」

父親と同じタイミングまで意識がなければそれに同意していたことだろう。しかし現実はそうではない

人を塵に還す瞬間を見た、およそ人智を超えた力を振るう姿を見た、であれば姿形が同じであれどきっとそれは、知っているではない、と判断せざるを得ない。

「あなたの言うミア、というのがなんなのかは知らないし、私はあなたの娘でもない。」

そう言ってひとつ思い出す、降りてすぐ瀕死の少女と出会ったこと、そしてそれは死んだこと、星に還す際に姿形と名前を貰ったこと。

「けれど私はその人を知っている、その人のおかげで私は今ここにこの姿で存在ができる」

不安な父親の顔が険しくなる、そして最悪の結末を脳裏に予想する。

「お前か…?お前なのか…!お前がうちの娘を!必死に逃げたうちの娘を殺したのか!なあ!」

胸ぐらを掴まれ叫ばれる。

「殺した?私は星に還しただけだ、それ以外は何もやっていない」

「星に還した…?お前は人を殺すことをそう言うのか!言い方を変えて自分の行いを正当化するつもりか!ふざけるな!」

さらに怒りは激化した、この言い方を先にしてしまった以上何を言ってもこの父親から見たら今のミアは人殺しに他はない。

「私はさっき下劣な奴らのように人の命は奪わない、そもそも私に会う前からその少女は瀕死の状態だった」

けれど言うしかない、それが嘘だと言われても、告げる他にできることはない。

世界を創造し破壊してきたとはいえミアは全能でもなければ万能でもない、1度失った、亡くなったものを完全に復元はできない、どこかで別のものに置き換わる、世界は、宇宙はそうやってできている。

「それにとどめを刺したのか!苦しむ娘を!生きたいと願った娘を!お前は!」

怒っている、怒ってはいる、けれど父親は泣いている、鬼の形相から頬に涙を伝わせる。

判らない、なぜこの人は怒りながら泣いているのだろう。

「お父さん、ホントだよ、私この人に殺されてないよ」

ミアが喋る、けれど今のミアじゃない。

胸がうるさい、けれど心地よい音がする、優しくて暖かい音がする。

「ミア…?今の、は…」

なぜ?あの少女は星に還した、なぜ喋れる?なぜ意識が私を押しのけて外に出る?もう世界ここには居ないはずなのに。

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