第3話

人の形を持って存在したミアという概念は、透き通るような銀色の髪、緑と蒼の目160cm前後の女性として受肉した。

ノースリーブの1枚布を全身に纏い山の中を歩き出す。

「どんなことになっているのだろう、そしてさっきの少女はこんな山奥にどうして?どこから?」

考えながら歩き出す、寝起きの反動で何が出来るでもない彼女はこっちだろう、と勝手に思った方角に足を進める、無尽蔵に歩き進めて3日が過ぎた頃眼下に栄える集落を見つける。

「これがヒトの集まるところね、どうやって発展し生き延びてきたのかしら」

ヒトという生き物の基本情報は先程星に返した際に自身のデータベースに収納した。

故にそのような知識はあれどそこに存在する感情や歩いてきた人生、記憶、人が人たらしめる理由を知らないため俄然興味があった。

せいぜい持っている知識としては人体の構成程度。

創世の際にどのような生命を生み出すかを本人が決められないためこれから知る。

今までも星に産まれた生命はそうやって上澄みの情報を集めてはきたものの直接干渉を試みて知ろうとしたのは今回が初めて。

「何やってるんだろう、あの生き物たちは」

いきなり突撃はできず、遠くから眺めるのみ。

「うーん?」

時間帯にして朝、活動を始める時間。

「巣から出てきた…なにか喋ってる?」

むー、むー、と首を捻って考える。

けれどその答えは持ち合わせておらず

「行ってみよう、あそこに」

スっ、と彼らの元へと飛び降りた

「?!」

「?!?!」

「!!」

「何を言ってるのか分からない…けれど驚いているのはわかる」

それも無理はなく、かなりの高さから飛び降り、音も衝撃もなく着地をした、そこに驚かれたと思っていた。

「どこから降ってきた?!」

そっちじゃなかった。

驚いたのはどこから降りたか、飛び降り方ではなく上から降ってきたこと。

「あれれ、言葉がわかる…なんで?急に」

それはそれで無意識に行えた、だからこそ気が付かない。

ん?今同じこと2回言ったか?

「アンタ誰だ急に!」

「うちらの集落を攻めに来たのかい!?」

「敵か?!敵なのか!」

「おい、全員外に出ろ!敵だ!攻めてきたぞ!」

あれよあれよという間に囲まれた。

数にしておよそ30人

「その手に持っているの、なに?」

首を傾げて指を指す。

「全員でいくぞ!」

その掛け声ひとつ、大量の槍が身体に突き刺さる。

「?ねぇ、これなに?」

痛くはない、血の一滴もこぼれない、けれど刺さりはする。

ミアにとっては何ら不思議ではなく、けれどその集落にいた人たちからしたら果てしなく異常な光景。

「「ッ!」」

1人が握りしめていた槍を落とす、そうして1歩、2歩と後退る。

槍を突き立てた人らも順に同じ行動をとる。

「なぜ叫ばない、なぜ血が出ない、なぜ死なない!」

1人が叫ぶ、それに共鳴して叫び出す。

「何者だお前!」

「どうなっている…」

自分たちの当たり前がまかり通らないという理不尽への怒り。

常識が通用しないこと、自分たちの終わりを察したことへの恐怖。

2極化した感情が響く、そしてその場の人たちを支配する。

「ねぇ、さっきからなにをしているの?全然分からないんだけど」

こちらはこちらで、勝手に人を集め勝手に攻撃をし、勝手に絶望し、怒っている。

その行動の速さを置いていかれたもの、として受け取り、少し不機嫌になっている。

「聞いているだけなのになんで攻撃するの?なんで大きな声を出しているの?なんで座って涙を流しているの?」

分からないことがあまりにも多い、それは集落の人間も同じ。

結局として両者思い描いたようにはいかず、ただ混乱を招いて終わるばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る