謎の空間

 目の前に真っ白な天井が見えた。

 どうやら俺が寝転がっているようだ。


 立ち上がりあたりを見渡すと、あたり一面真っ白の空間だ。広い部屋に閉じ込められたみたい。

 数メートルには黒い物体も確認できた。


「……ここはどこだ? 確か、俺は……」

「気がついたみたいね」


 振り返ると、俺と同じ歳の女の子が立っていた。

 どこから現れたかわからない。足のスラッとした女の子。彼女は口を開く。


「こんにちは。いや、ここの空間には時間という概念がないから挨拶は何でも良いか」

「空間……? 概念? どういうこと」


 俺は頭が混乱してきた。

 少女は無知な俺に優しく説明してきた。


「私達はここに閉じ込められちゃったの。さっきまで大勢の人がいたけど、いま残っているのは二人だけ」

「二人だけって……他の人は……」

「唐突にいなくなったわ。なんででしょうね」

「俺はクイズが嫌いなんだよ。特に答えのない問題がな」


「逆に私はクイズが好きかもね。それはさておき、貴方はここの空間から脱出したいと思わない?」

「その『さておき』が、重要なことなんだが。まぁいい。これは答えがある問題だからいうけど、『脱出したい』それが俺の答えさ」


「そういうと思ったよ。それがあなたの正解かもね。次に問題」

「問題……?! おいおい。まずは脱出だろ?」

「私はこの場所を何て言っているでしょう?」

「しらん!」


「私はこの空間を『プラット』と呼んでいるわ」


 正直この場所の名前など、どうでも良い。早く脱出したいからだ。


「このタイミングで言っても『プラットと呼んでいるのか……』ということないだろ」


「この問題が解けたら脱出する方法教えてあげる。あなたはどこから来たの?」


「俺? 俺は……」

 このタイミングでハッと思い出した。


「思い出した。俺は確か修学旅行のバスに乗っていて。そこから急に眠気が……」


 そう、俺はバスの中で寝ていた。それだけは覚えている。だが、いきなりこの場所にたどり着いていた。


「そう、貴方はバスの中に乗っていたの。正解」

「散々答えたから、なにかご褒美とかあるのか?」


 俺は冗談っぽく話を振ってみた。そのとき少女の口から思いもよらない返事が返ってきた。


「実は戻れる方法って知っているの」


 戻れる方法を知っている……? それは良いこと聞いた、と急いで話してみた。

「知っているのか、どうやって!」


「あそこにある。黒い箱があるじゃない? それを取ってくれないかな」


 俺は喜んで、それを取り、彼女に渡した。


「ほらよ。これでどうするんだ?」


 すると、女の子は黒い箱の先端を取る。中身はなんだかいびつな形をしており、電気を帯びているようにも見える。


「これはね、この部屋だけにしかない形の電気スタンガンなの。これに当たったら脱出できるよ」


 俺は青ざめた。それは命のロウソクが電気により燃えてしまうからだ。


「冗談じゃない。俺は嫌だからな」

「これが最善策なの我慢して」

「ダメだ。他の人にもそれしたのかよ」

「えぇ、したわよ。だから安心ね」


「できるか!」俺はその場から逃げ出した。真っ白な空間を背景に俺は駆け出す。


 しかし、走り続けても、同じ景色なので、今どこにいるのかわからなかった。


「はぁはぁ、ここまでくればもう会えないだろう」

 俺は全力で彼女のところから去った。もう二度と会えないだろう。


「――――会えないだろう。と思っている」


 なぜか後ろから女の声が聞こえた。振り向くと、形の違うスタンガンを持ったさっきの少女が立っていた。


「え? どうして……」

「貴方はずっと同じ場所にいたんだよ。ただ地団駄を踏んだだけ」


 俺は限りない絶望を味わった。もうダメだ、俺のロウソクが溶け出すんだと感じている。


「それでは、元気でね。たかやくん」


 たかやくん……? 聞き覚えのある名前だ。いや、これは俺の名だ!

 なんで俺の名前を知っている。この女の子は誰なんだ。

 

 自分は疑問に感じるけど、体にスタンガンが当たりそうになる。

 バチバチと嫌な音が鼓膜に響く。そして、その電気は身体に触れてしまった。俺はもう諦めていた。


 しかし、なぜか痛みはなかった。なんでだ? 全然わからない。


「願い事、聞き入れた。良い目覚めを」


 彼女の声が遠く聞こえる。そのまま意識がボーッとしてきた。

 


 俺が気がつくと天井には白い空間が目に映っていた。

 さっきと違う点と言えば、俺の家族が見ていたことだ。


「目を覚ました! よかった。たかや。無事生き返って」

 俺の母さんは感情をこみ上げて言っていた。


 辺りを見渡すとベットの上で、どうやら病院のようだった。

「お、俺は……」


「たかや。お前はバスの事故に遭っていたんだ」

 隣にいた父さんはそう語る。


 バスの事故。一瞬理解してなかったが、これも少しずつ思い出してきた。


 俺はバスに乗り、うとうとして寝ていた。しかし、山道を走ってから数十分後、事故に遭い、そのままバスは崖の外から落ちていった。


 何で寝ていたのに気づいていたのは、一瞬起きていたからだ。

 しかし、俺はその後、気絶をしてあの空間にいた。

 きっとその記憶を無くしたかったんだ。都合が悪いから。


 「たかや、知っているか? あの山には親切な神様がいて、その試練を乗り越えると良いことが起きるんだ」

 父さんは涙声で話している。


 試練……そうか。あの空間は試練場だったのか、それで俺を生き返らせるためクイズをしたり、電気を浴びせようとしたり。


 俺はほっとした。しかし、他の生徒が気になるところ。俺は力を振り絞って聞いてみた。


 すると、衝撃な事を話した。


「お前以外は、皆、犠牲になってしまったんだ」

「嘘だろ……」俺は目を丸くし、声を漏らした。


「きっとお前は神様に好かれたんだな。それだから……」


 好かれた? どういうことかわからない。ただいえることは、自由時間に一人で山の神がいる神社でお供えとお参りしただけだ。それに願い事を。


 俺だけ好かれる神様がいて、バスの中で騒ぐ生徒全員を黙らせてほしいことを願っただけさ。

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