譲り合い
「今日の女もチョロかったな」
キザっぽい男はニヤけた表情で街をズカズカと歩いていた。
「今回は生意気そうな娘だったな。あれで二十代後半かよ」
彼は地面につばを吐く。下品な男だ。
名前は山本。女しか興味ないつまらない人。
山本はしばらく歩いて、公園までたどり着き、だるそうにベンチに座っている。
彼の横には、花柄やへんなネコのアプリケットが縫ってある独特のファッションをした人がいた。だが、山本は気にしない。
そこの公園には、遊具や噴水、時計台まである。地域の人達から親しく愛された場所だ。
「あーあ、どこか、いい女いないかな」
彼は持っていたタバコに火をつけて、公園の周りを観察していた。
遊具で遊ぶ子ども達や、元気そうな老人達は楽しそうに会話が弾んでいる。
そして、美人の女性が時計台で立っていた。山本のタイプの女性だ。
「お、いい女発見。早速ナンパするか」
キザっぽい男は立ち上がると、同時に隣の人も立ち上がった。
すると、その人は美人がいる時計台まで距離を歩く。
「ちょっとまて。お前もあいつ目当てか?」
「なによ! この子はアタシのエモノよ! 邪魔しないでくれる?!」
口調はオネェぽいが、どうやら男性より女性の方が好きそうだ。
「いやいや。相手は女の子だぞ」
「アタシは女が好きなオネェよ! 勘違いしないで?」
「うるせぇよ。俺の方が先だからな!」
「だったら、なんでベンチで事前報告しなかったのよ。そうすればアタシあきらめたのに」
「いやいや、そうしたら、俺が変人になるじゃないか」
「ナンパは事前報告制よ。アタシのバーではそうだった」
「そんなローカルルール聞いたことないわ!」
山本はぶち切れた。そうこうしているうちに、女性のいる時計台までたどり着いた。
最初に話しかけてきたのは、オネェの方だった。
「ねぇ、そこの人。つらい悩みがありそうね。よかったらアタシと話さない?」
続いて、山本も声をかける。
「お姉さん。いま暇? よかったら俺とお茶しない?」
「ちょっと、アタシの方が先じゃない! 貴方は黙って公園の水でも飲みな!」
「お前も悩み相談ならここにいる老人と会話しやがれ!」
「あの、ちょっと良いですか」
声の高い女性が申し訳なさそうに話し出す。
「ウチ。女装趣味の男なんですよ。それでも良ければ」
彼女は男性だった。とても可憐で、女性しか見えない。
ナンパしようとした二人は呆然としていた。勘違いしていたのだ。
「あら、そうだったのね。ちょっと貴方。お茶でもして話してみない?」
「そっちそこ、喋るなら悩み相談でもした方が良いんじゃないのか」
「いいのよ、譲らなくて」
「そこは譲り合いということで」
「ウチは二人とご一緒にお話ししても良いんですけどね」
可愛い男性はクスクスと笑う。
その後、三人は共通の話題が合って、友達になった。今でも交流は続いている。
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