episode5


「そうだ、小笠原さん、次の日曜日って何か用事とかありますか?」



理事長が帰って数分後、未だに恐怖心が残る僕に茜が声を掛けた。



本当に態度の変化が急なんだよなぁ。



「何も無いですけど…」


大した趣味もない僕には用事が入ることなんて、ほとんど無い。



「じゃあ、一緒に東雲(しののめ)学園の学校祭に行きませんか?」



「東雲学園って、あのですか?」



東雲学園といえば、国内屈指の名門高校で、学校祭は毎年テレビの取材が入るほど、有名だ。



「はい。東雲学園の学校祭は、幅も広くて、今後の生徒会や学校祭において勉強になることが沢山ありますから。小笠原さんも勉強になると思いますよ」



東雲学園の学校祭は興味はあったものの、特に理由はないが、今まで一度も足を踏み入れたことは無かった。



茜の態度が変わるんじゃないかという不安要素もあるけど、ここ一ヶ月の茜から、何も無ければまぁ大丈夫だろう。




「分かりました。…あの、茜会長はどうしてそこまで生徒会に力を入れるんですか?」



僕はずっと気になっていたことを茜に尋ねた。


茜は毎日真面目に、そして真剣に生徒会の仕事と向き合っていた。


しかも、更に勉強の為に他の高校の学校祭を見に行くというのだ。


どうしてそこまで出来るのか、僕には分からなかった。



「…一つは、それが会長として、生徒会としての役目だからです」



茜はいつになく真剣な表情だった。



「私は、選挙で選ばれて会長になりました。投票してくれた皆さんの期待に応えなくてはいけませんし、落選した方の想いも背負わなければいけません」



茜はそう言いながら机の引き出しを開ける。

そこには、生徒会長候補、と書かれた襷が入っていた。




「そして、もう一つは」




僕はゴクリとツバを飲んだ。




茜が息を吸った瞬間、




「特進科二年、久世茜さん、至急職員室に来てください。繰り返します…」



呼び出し音と共に、スピーカーから声が大きく響いた。



「…この話は、また今度。ですね」



茜は吸った息を大きく吐いて、微笑んだ。



「ですね」



それに応えるように僕も、ドアに向かって歩いていく茜の背中に向かってそう言った。

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