第4話 時を超えて文通を

「…少し、落ち着きましたか?」

部屋の中心。コトン、と白い湯気の立ったホットミルクを木製の長机に置いて、少女が温かい声で優しく聞いてくる。

ミルクの温かい匂いが自然と腫れた瞼と心を落ち着かせてくれる。

やっぱり赤ちゃんの時に嗅いだ匂いだからだろうか。

ずっと、好きなものだ。

「…はい。すみません、ご迷惑をおかけして…」

「いえ、気にしないで下さい。ここには、楓さんみたいに色んな方が訪れますから」

「えっ、名前…」

名前なんて教えたっけ?

「以前、美月さんに教えて頂いたんです」

「美月に…」

美月は一体ここでなにをしていたのだろう。

そんな疑問が再び駆け巡りそうになって、思わず頭を横に振る。

「美月さんの事は教えられませんが、もしかしたらお力になれることがあるかもしれません」

「力に…?」

私が問い返すと、少女はその大きな瞳を更に見開いて、私に尋ねてきた。

「はい。…手紙、送ってみませんか?過去の美月さんに」

「…え?」

思わずその瞳に吸い込まれそうになったが、言葉を聞いた瞬間、我に帰った。

過去の美月に手紙を送る…?

何を言っているのか、日本語なのか分からなくなる。

「ここは、時空を超えて文通のできる、特別な場所なんです」

「時空を超えて…?」

「はい。過去の美月さんに手紙を送れば、美月さんがいなくなった理由がわかるかもしれません」

少女のその瞳を見た瞬間、なぜか、この人は何か知っている。

そんな想いになった。

「手紙、送ってみませんか?」

少女が静かに、だけど強い口調でそう言った。

実際、過去の美月に手紙なんて送れるはずがない。

そんな事、分かっているのに。

「…はい」

私は吸い込まれるように答えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る