第8話 退職後半年以上経つのに取引先から電話があるってマ?
8月3日(木)曇り。 07:07
夜中に扉が何度かミシイッ!って誰かが開けようとしていたけど開かなかったので安心してそのまま寝ました。
で、朝。
朝食を作りながらさて今日は何をしようかと考える。
と、元職場の後輩から電話が掛かってきた。
「おはようございます。どうしました?」
『先輩~!大変な事になってますぅ~!』
「えっ?何事?まだ業務前ですよね?」
『先輩がフォローしていた案件全部今月で終了と言われました!』
「だろうね。あのレベルのフォローが無いとうちの製品使ってくれないよ?他社と比較してもワンランクとは言わなくても半ランク下なのに値段1.3倍だし」
『そんな~!』
「それを補助するシステムをこっちで作って無償提供していたけど休日返上で作った奴とかは退職の際に全部消したからあとはそっちで頑張ってください」
『そういったのは平日の業務中にやってくださいよ~』
「平日の業務中は電話応対と客対応、そして通常業務があるじゃないですか」
『一昨日から昼食取らずにサビ残でギリまわしていますけど、これ無理です!』
「来月から対応する案件がグッと減るから仕事は楽になりますよ。やったね!」
『先輩酷いっス!』
「今夜飲む?居酒屋くらいであれば奢るよ?」
『ぅう…先輩は何かとお金が必要な時期でしょうからそれは…』
「宝くじがちょこっと当たって小金持ちだから居酒屋で奢るくらいな『行くっス!あざっス!頑張って19時半には終わらせるっス!』…おーう、了解。頑張って」
通話が切れる。
あの会社、来期だいぶ赤字になると思うんだけど…大丈夫かな?
サポートしていた大型案件と周辺市町村の案件はサポート必須状態だった。
そんな中営業は分からないの一点張りで私に投げまくっていた。
都度上司に報告していたのに返ってきた言葉は
「出来る者がやれば良いじゃないか。営業が必死に取ってきたもので我々の給料は賄われているんだから。それに業務は暇でしょ?」
と。こちらの仕事を全否定するレベルの返答だった。
暇どころかサビ残、サビ出しまくりだったわ!
巫山戯んな!こちとらアフターフォローという名の営業掛けて1300万の案件取ったんだぞ!?その功績も営業に吸い上げた挙げ句事務職のボーナスだけ減額とかっ!
……危ない。思い出したら暗黒面に落ちるところだった。
今はもう関係ないんだ。深呼吸深呼吸。
心を無にして食事を作ろう。うん。そうしよう。
「ああ、そう言えば夜中にあの扉を誰かが開けようとして開けきれずに諦めたっぽいんですけど」
食後、そう言えばと扉のことを伝えたら…
「え゛っ?」
うわ、彼女達の顔が凄いことになっているんですが?
「みんな一緒に来て!補強しなきゃ!」
「次は絶対に力任せでぶち破ってくるから補強補強!」
「蔦で縛ってもダメ!?」
「保つわけ無いじゃないの!」
「うわ~~んっ!」
何か大参事だ。
彼女達が一斉に移動する。
私に出来ることはないので…のんびりと今日の予定を立てよう。
…商店街のスーパーが39セールするのか…今日は3日だから野菜類数量限定の39円と…お姉様方の攻撃力が上がるからスルーだ。スルー。
あんなのドラゴンがいても勝てるわけが無い。
特に店員のペナルティーチェック能力が凄すぎて…うん。
あの人もきっと異世界の化け物だと思う。
冷凍食品含めある程度は購入しているわけだけど、お金はある程度持っておかないとなぁ…
「……」
ヨロヨロと彼女がやってきた。
「フラグって、凄いわね」
「えっ?」
何その不穏ワード。
「竜族…来ちゃった」
サアアアアアアアアッッッ(血の気が引く音)
「部屋が、壊されるっ!」
「そっち!?待って待って!それはしてないから!人化できる1人だけを通してまた閉めたから!」
「平和的解決出来たんですか!?」
「…なんか、龍神族の長老に脅されたらしいわ。暴れるなって。あとお土産にお酒買って来いって」
「……あー」
これ、自腹案件ですやん…
「今貴方の部屋で適当に服着せているんだけど…女性物無いの?」
「私は男ですので女性物は無いですねぇ!」
と、
トントンと階段を下りてくる足音が聞こえ、
「これで良いか?」
そう言ってライムグリーンの長髪美女が姿を現した。
私の昔着ていたジーンズパンツ…今はデニムのパンツって言うんだっけか?
に私の黒シャツを着ている。
「初めましてと自己紹介をする前に…失礼ですが、そのシャツの中からTシャツを着てください…」
たわわな胸の先端がですね…はい。
「む?何故だ?」
「胸の先端が目立つような格好は…」
「むぅ…仕方ない」
女性は渋々と言った顔で再び2階へと上がっていった。
そこ私の部屋なんですけどぉ…後それ私の服なんですよ…
「改めて、竜族…と言って良いかな?の、仮にアキナと呼んでいただきたい」
「これはご丁寧に。人間の末岡と申します。因みに苗字ですが、末岡でもおじさんでもご自由に」
「うむ。早速でなんだが…酒を戴きたい」
あっ、これ交渉の余地無しか。
「これ、交渉の余地無しパターン?」
私は態々目の前のアキナではなく彼女に聞く。
「あるぇ!?普通に交渉するって聞いたんだけど!?」
「交渉(物理)とか恫喝交渉ですかね?」
「怯えてすらいないのに?」
「まあ、うん…先程スーパーのチラシを見て恐ろしいセールやっているのを思い出しましてね?」
「…イカナイヨ?」
「何故カタコト!?」
「貴様等…」
「いきなりやってきて酒寄越せと言うのはそちら流の交渉なのですか?」
私は真顔でアキナの方を向く。
「ぐっ…」
「それは一方的な申し渡し、命令であって交渉では無いです」
「そうね。少なくとも対価についてすら話は出ていないもの」
「ぐうっ…!」
ふはははは!ぐうの音しか出まい!
と、金髪我様裸王様が呵々大笑している脳内映像が出たけれど無視で。
「因みにお酒と言われても色々な種類があるので…」
「全部」
「何万、何十万アイテムあると思っているのですか?」
「そんなにあるのか!?」
「まあ、つい最近焼き払われたところもあるので少しは減っていると思いますが」
「あうっ!?」
相手の失点は交渉外の所でしれっと毒を入れる程度にしましょう。
おじさんとの約束ですよ?
そこをごり押しすると余程の力関係や信頼関係が無い限り後でしっぺ返し来ますからね?
「で、そちらは何をご提供出来るのでしょうか」
「……金銀宝飾品や武具の類だ」
「では金で。まずは少しでお願いします。純金とかであればありがたいですが…」
「あ、じゃあそれ私がメダルにする?抽出と彫金は得意よ」
「ではお願いしても?」
「甘いお米のお酒で!」
「手数料ですね。分かりました」
「金は…ほら」
ゴトリとテーブルの上に置かれた。
厚手のテーブルマットで良かった…傷が付くかも知れないし…付いてるかも。
恐らく2~3キロの金鉱石。しかも8~9割金だ。
「ええっと、昨日時点の金の相場は…グラム1万円か…これ、2キロくらいですかね?」
「それくらいじゃ無い?」
「2千万円かぁ…税金がどれだけ取られるか…確か年間50万円未満なら…うん。私が十年単位で売るしか無いですね。2千万円でこの金塊を買い取ります。その金額分お酒を買う…それで宜しいですか?」
「…良いのか?」
アキナさんは困惑した顔で私と彼女の方を見る。
「嘘偽りの無い真っ当な取引よ」
「こんな事で商売っ気を出してもねぇ…ああ、渡した4リットルのウイスキーならおよそ2000本は購入出来ますよ。ただ、工場が大阪にあったはずなので値上げで1800本位しか買えなくなる、なんて事もありますが」
「ぐううっ!?」
いや事実を言っただけですからね?
そこで胸を押さえて動揺しないでください。
まあ、私の当選金から補填という形にしますか…
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