第9話 みんなで、一緒に、お買い物?


 何故だ。

 何故こんなにも…顔面偏差値があるんだろうか…

 なんて寸劇を脳内で行いながら車を走らせる。

 助手席にはアキナさんが。

 その膝の上に妖精が姿を隠して座っている。

 髪の色は妖精が黒に見えるようにしているのはとてもありがたい。

 代表者である彼女はアキナの服を注文すると言って残った。

 決してスーパーの特売を見せに行くと言ったから他の子に押しつけたわけではない…と、信じる。信じますよ!?

「そのすうぱーと言う所に行けば酒はあるのか?」

「ある程度はありますねぇ…まずはそこで食料とお酒、ツマミを買った後に酒屋に行って龍神族の酒と…業務用ウイスキーはあったかな…まあ、今のうちに通販で1ケース買っておきますかね」

 いつものコインパーキングに車を駐車し、スマホで確認。今日中に届くらしいので…2ケースに変更し確定。

 怪しいまでの酒カス履歴…明日からはちょっと足の付きにくいところで買わなきゃいけないんじゃないかな?これ。

 なんてことを想いながら車を降りる。

 で、

「……まさか、あの群の中に入るのか?アレはダメだろ!」

「誇り高い竜族がそんなんでどうするんですか」

「強い弱い関係なくアレはおかしいだろ!」

 アキナさん、怯えているんですが。

 嫉妬と敵意MAXなおb…失礼、お姉様方の眼力に気圧されています。

「まあまあ…あの方々が入った後で入るので問題ありませんよ。お母様方は特売のために並んでいるだけなので」

 開店と同時にドドドドと突撃していくその姿を見送る。

「さあ、行きましょうか」

「だっ、大丈夫なのか?」

「ええ。あの人達が向かう場所とは違うので」

 彼女達は野菜売り場へ。俺らはまずは酒のコーナーからだ。

 あと、そんなに私の腕に抱きつかないでいただきたいのですよ…ダイレクトにムニムニとですね…

 手早く店内に入るとアキナさんは左の方をビクビクしながら見ている。

「はいこちらですよー」

 私は彼女を誘導しながらカートとカゴを取り、お酒のコーナーへと向かった。

「…樽はないのか」

「樽はないですよ。そもそも人間が樽で飲んだら急性アルコール中毒で倒れますから…そのまま空気に晒すのもあまりよろしくありませんし」

「えっ!?」

「何が好きなのか分からないので適当なものを2つずつ買っていきましょうか」

「えっ?あ、うん…」

 まずはウイスキーやワイン、焼酎、泡盛、を適当に買っていく。

 日本酒は…奴の店で買うから問題無いが、ここの方が安い銘柄に関しては容赦なくここで買っていく。

 そしてお会計が…ちょっと笑えない金額になった。

 そりゃあそうですよねぇ…

 4~5000円のお酒を2本単位で買えばねぇ…

 お財布の軽さと荷物の重さでフラフラになりながら一度コインパーキングに戻って後部座席に荷物を置き、奴の店へと向かった。



「おういらっ、しゃいませぇ…」

「気持ち悪いので帰ります」

「待て待て!」

「いやマジ無理。本当に気持ちの悪い笑顔だったぞ今の。警察だったら銃構えるレベルで」

「えっ!?俺そんなに気持ち悪かった!?」

「かなり」

『えっ?コイツ人間なのか?人に憑依したモンスターではなく?』

「…あー…人だぞ?」

「えっ?外国の方?」

「ああ。とりあえず酒を買いに来た。買った奴は取られたりしたからな…」

「取られたって…まあ、見ていってくれ」

 私のやさぐれた表情を見て察したのか奴はそれ以上何も言わずにレジへと戻っていった。

 物珍しいウイスキーと日本酒をまとめ買いし、4万円支払う。

「お前…買いすぎじゃないのか?」

「配る用もあるから仕方ないんだよ…大切にしているやつ取られたら敵わん」

「……外人は酒に強いって聞くが…それ程か」

「それ程だ。まさか業務用のウイスキー飲まれるとは…」

「マジか!…スゲぇな!…ほいよ。持てるのか?」

「2人でそこのコインパーキングまでだから何とかなる」

「おいおい女性に持たせるのか?」

「私より筋力あるぞ?」

「…お前、結構力あるよな?」

「それよりもあると言っているんだ」

「……ぇえ?」

 訝しげにアキナさんを見ていた奴は、購入した物とは違う業務用ウイスキー2本が入った袋を平然と持つ姿を見て固まっていた。

「多分これで暫くは問題無いと思う。長居するわけでもないと思うから」

「そうか…残念だ。あと10万くらいは買って欲しかったんだが」

 そんな台詞を背に受けながら店を出た。


「下卑た思考が入り込んできて気持ち悪かった」

 アキナさん、ちょっと不機嫌ですよ。

「美人を見た男性なんてこんなものだと思いますよ?」

「美人?私がか?」

 キョトンとした顔でこちらを見る。

「ええ。クール系の美人さんですね。先程から道行く男性が貴女を見ていましたが」

「…ああ。程度は違うが下卑た目で見られていたな」

「美人だなあお近づきになりたいなあという目ですね」

「末岡はそんな目で見ないじゃないか」

「私は外行きモードと心の戸棚に欲望をしまい込みましたので。貴女のことは普通にクールなのに可愛いところのある美人さんだという認識ですよ?」

「…そうか。いや、面と向かって言われると、少し照れるな」

「おじさん!コロッケ!」

 と、今まで空気だった妖精が反応した。

「コロッケかぁ…まあ良いでしょう。お昼にちょうど良いかも知れませんね…その前に、これらを置いてからということで」

 おじさん腕がパンパンなんですよ…


 前回同様2種類20…いや22個購入して家路を急ぐ。

 買物で午前中が潰れるなんて贅沢だなぁ…しかも恐ろしい散財を…

 ちょっとため息が出る。

「?どうした?」

「いやぁ…結構な散財をしたなぁと。まあ、今暫くは問題ないのですが」

「あの金を売れば良いじゃないか」

「一度に売ると税金がかなり引かれるのと、恐らく国は異世界交易に関して金もしくは魔法薬の取引をしていると網を張っていると思うんですよ。面倒なのでそれらをかいくぐりつつ私は普通にご近所付き合い感覚で個人間の物々交換をしたいのですよ」

 車庫に車を入れて荷物を…流石妖精。いつの間にか家に転送していましたよ。

 コロッケ目当てですね?

 もし私達の分を残していなかった場合…酷いですよ?

 きっと起きるであろう悲しみを怒りに変えようと決意して車を降り、家へと入る。

「あっ、お帰りなさい。コロッケ食べてるよ!」

「ええ、ええ。私達のは残っていますよね?勿論」

「アキナさんの分はテーブルの上に!」

「私のは?」

「………ナーイナイッ」

 成る程。私達の分が無いのではなく、私の分が無いのですね。

「私の分も食べたのですから、お昼は要りませんよねぇ?」

 ニッコリと微笑んだはずがニ゛ッ゛ゴリ゛になっていたようでアキナさん含め全員が「ヒイイッッ!?」と悲鳴をあげた。

 いやですよまったく…理不尽な残業による徹夜明けで気が立っているのにその筋の人が怒鳴り込んできたときもこんな状態だったなぁ…午後に菓子折持って勘違いでしたと謝りに来ていたけど…

 その人が出せと言った人って部長の息子さんの名前だったなぁ…



「ああ、私夕方から少し外出しますので、今テーブルに並べているお酒はどうしますか?」

「うん?全て持って帰ってはダメなのか?」

 不思議そうな顔のアキナさんに私は一応説明をする。

「持って帰っても構いませんが…日本酒の方はどうするのですか?アレの中から龍神族に渡す物を選ぶとなると…選びきれず全部持って行かれるかと」

「えっ!?」

「日本酒が気に入ったからお土産として強請っているのですから…しかも自身は何も持たせずに」

「あっ!」

 そう。図々しくもお土産を強請っているのだ。

 恐らく1本では済まないだろう。

 マジで自腹案件。

「私は渡す義理は無いので…竜族宛のお酒が不当に消えるだけという悲しい結末になると思うのですが」

「…どうしよう」

 困った顔のアキナさんに一つの解法を授けよう。

「お土産と言っただけで日本酒とは言っていなかったのですよね?」

「…ああ」

「であれば日本酒は持っていかず…これを差し上げてください」

 私はとあるお酒を差し出す。

 アルコール度数が96%のあのお酒を。

「超強力なお酒ですので気を付けてください。1本は竜族に。もう1本は龍神族にということで…」

「…いいのか?」

「龍神族の方々にはこう伝えてください。「龍神族の方々とは公正な取引が望めないようで残念です」と」

「喧嘩を売っているのか!?」

「いえいえ、私は土産を強請られたという部分だけを聞き、一度どころか二度も土産を強請られたのだと判断してしまっただけです」

 実際取引を始める前の段階で又聞きで聞いた訳ですし?

 今でこそ分かりますけどね?購入時点では可能性の1つとして用意していたわけですよ…

 さあ、喜ぶか、怒るか、のたうち回るか…楽しみですねぇ


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無気力になったオッサンは世界を脅かす 御片深奨 @misyou_O

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