第5話 龍神族と竜族と思い込み。そして大惨事
「えっ!?どうして巫女様が!?」
慌てる彼女におどおどした女性が私の方をジッと見る。
「この家の主の末岡と申します。彼女達とは…個人貿易以前に親しくさせて貰っています」
軽く挨拶をすると、少し驚いた顔をした。
「達、ですか?」
「ええ、1階に40名近く…屯されてますね」
「言い方悪くない!?」
「集まっている…というよりは半分住んでいる感じかな?」
「…食と住は提供して貰っているし、服も注文したわね…えっ?私達、面倒みて貰ってる!?」
「今更ですか…」
頭を抱える彼女に私はため息を吐く。
最悪の状態と言っても良いかも知れませんが、私如きがズバッと解決なんて出来るわけも無い。
「では貴方が唯一の…」
「今のところは、ですが」
一応他の人も交易する人がいると信じてますから。
もしくはそれすら全て吹き飛ぶかも知れませんし。
「恐らく竜族が暴走しているのはどこかで複数の竜族が騙されたからでしょう」
「えっ?」
「早すぎない!?」
「いや、治安の悪い国に扉が開いてでてきて早々襲われたとか…」
「その程度であれば殴り返す程度でしょうね」
「そっかぁ…」
「低俗な騙され方などでも殴って終わりでしょうが…よほどプライドを傷付けるような騙され方をしたのかと」
非常に嫌な予感がしたのでPCを立ち上げ、ニュースを確認する。
「……あー…」
ニュースサイトは速報で溢れていた。
ファンタジー生物の代表格であるドラゴンが各国を襲っていると。
アメリカ、中国、ロシア、韓国、ブラジル、そして日本。
「いや、これはアウトでしょうて…」
「だよねぇ…」
「別口で来た種族で私達とは関係ないと突き放した方が良いかもなぁ…流石にこれは人死にが出過ぎている」
「それはちょっと…」
「いえ、嘘では無いですよ?種族が違いますし、順番を守らず、別口できたのも事実。あちらの自己責任ということです」
「「あー…」」
ご納得いただけたようで何よりです。
「ただ、一応自分たちは無関係と言うことと、暴れ出した理由をしっかりと伝えた上、今回だけは上位種族の方に頼んで竜達を暫く抑えこむ…と伝えてもらえませんか?」
「えっ!?私!?」
「いや、貴方しかお偉いさんと会っていないですよね?」
「う~~~~っ…分かったわ。とっとと行って伝えてくる」
彼女はそう言って消えた。
さて、聞けることを聞いておくか…
「一つ聞いても?」
「…何か?」
「何故、妖精族の情報を焚き付けるようにリークしたんですか?」
ピクリ、と僅かに眉が動いた。
「どういうことでしょうか」
「妖精族は竜族に関してかなり警戒をしており、できる限り情報を与えない、もしくは遅延工作を行っている様子でした。面倒だから最後にしていると」
巫女の目が細く、鋭くなっていく。
「更に言えば妖精族は今回我々の世界に関してはもう少し様子見をすると言っていましたので、誰かがわざわざ竜族にリークしない限りは…」
強力な殺気が私を襲った。
「へぇ…根本は竜族と同じって事ですか。他種族を見下すと」
「…殺気を当てても平然としているとは」
「1円特売セールのど真ん中に放り込まれた時の主婦達からの殺気に比べれば…」
「この世界にはどんな修羅が棲んでいるの!?」
「世のおっかさんは強い…それは世界が違っても一緒と思っていましたが…違いましたか?」
巫女はなにか記憶を辿り…真っ青な顔になった。
あ、うん。この反応はトラウマ呼び覚ましたのかな?
「しかしまあ、私には関係ありませんね。確認したかっただけですし、事は起きてしまったのでどうすることも出来ません。さて…」
此方を見て呆けた顔をしている巫女に「何か?」と首をかしげる。
「いえ、同族が襲われたのですからもっと感情を露わにするのかと」
「やらかした結果ならどうしようもありませんよ。そういえば竜族は戻ってきますか?」
「恐らくもうすぐ戻ってくるかと」
「あー…では、竜族にはこれをプレゼントして大人しくしてもらってください」
私は部屋の隅に置いてある開いていない業務用ウイスキー4Lボトルを巫女へと渡す。
「わっ、と…」
巫女は少し驚きはしたものの、片手でボトルを持った。
「あとは…そちらさんへの手土産か。まあ、これでいいか」
日本酒セラーから一升瓶を取り出す。
白いラベルに躍動する龍が描かれており、漢字二文字がその龍の勢いを現す日本酒。
でも、あげたくないなぁ…仲良くしたいとも思わないしなぁ。
なんてことを思いながら巫女へと渡す。
「こちらもですか?」
「これはそちらの一族へですね」
そっけなくそう答え、「どうぞお戻りください」と告げると少し変な顔をしながら戻っていった。
扉が閉じ、数分経った頃に彼女が戻ってきた。
「…危なかったわ。アイツら本気でこちらのせいにしてきそうな勢いだったわ」
機嫌悪そうに告げる彼女に乾いた笑いが出た。
責任転嫁というよりも、当然の反応だろう。
まさか竜族の暴走な挙句、自業自得な結果だなんて思っても見ないだろうな。
「もしかすると戦争状態とでも思っているんじゃないかな?今回の件を相手のせいにして丸く収めるのならもう一度竜族を嗾ける。なんて釘を刺してもらった方が良かったか…?」
「考えることエグいわね」
それぐらいじゃないと絶対そう言ってくると思うんですけどねぇ・・・
「巫女様は?」
「あまり相手したくなかったので竜族のお酒と本人たちのお酒を渡して戻しました」
「まあ、竜族も龍神族も他者を下に見るから…」
「気付いていたんですね」
「…で、何をしているの?」
「えっ?」
今私がしていること。それは扉の隙間に瞬間接着剤を流し込んでいるだけ。
まあ、簡単に開くかも知れませんが、厄介事は封じるに限るので。
「じゃあ私もその接着剤?に補強を掛けちゃえばOKね」
彼女がニッコリと笑って手をかざす。
扉の隙間、接着剤を付けた部分が光った。
「これで大丈夫!力使ったからお腹すいたー」
「はいはい。人数も人数ですし、チャーハンでも作りますか…餃子付きで。ああ、そうなるとビールが…」
「えっ?なに?そんな顔してるって事は美味しいの!?」
「ビールは苦いですよ?」
「でもその組み合わせが良いんでしょ?」
「たまりません」
「う~~~っ…呑んでみる!」
まあ、一ケースあるので、試しにコップ一杯程度なら…なんとかなりますかねぇ?
私と彼女は一緒に一階へと降りていった。
「苦いけど美味しい!」
「熱い!冷たい!苦い!美味い!」
「これは…罪深い…あ、日本酒でも美味しい!」
わいわいきゃあきゃあ元気よく食べて、呑んで、喋る。
女三人寄れば姦しい。そしてこれだけの人数いれば言わずもがな。
私は今きっと悟った顔でチャーハンのおかわりを装っているに違いない。
腕がパンパンですわ。
明日、冷凍チャーハンと冷凍餃子を大量購入してこようか…
「おじさんビール!」
「4缶出していたはず…もう無い!?チューハイは駄目でビールは良いとは…よくわからないな」
とりあえず冷蔵庫から追加で4本出して冷蔵庫の横に置いていたケースから4本取り出して冷蔵庫に入れる。
「あ、この苦みが癖になる」
そんな声が聞こえたので、念のためにあと3本追加して冷蔵庫に入れた。
これは冷凍ストッカーを購入するか…?
いや、その前に実験結果の確認が先かな。
時刻は20時を過ぎている。
数字選択式クジの結果が出ているはずだ。
部屋に戻り、チケットを取り出す。
そしてスマホで購入したクジの番号も用意し、サイトを確認する。
「ふぅむ?…これは、予想外ですが…まあ、良かったと思いましょう」
結論だけいうとキャリーオーバーで最高6億当たる方のクジが当選した。
ただし、複数人数が当選したようで6億とはいかないものの、2億4千万程当たった。
「最後に買った物が当たるという方式なのか、それとも最も幸運が必要なものに吸い上げられたのか…分かりませんね」
しかし、当たったことは確か。
振り込まれるのは明日。
さて、一応仮にでも当たったと言うことで話し合いをしますか…
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