第3話 買い物と散財と増員。冷やしそうめんを添えて

 妖精達は全員姿を消せたし、カメラにも映らなかった。

 なので今日はみんなでお出かけ決定のようだ。

 ルートとしてはスーパー経由酒屋と肉屋、八百屋だな。

 しかし量によっては…午前と午後で分けるかな…酒は配達してくれないかなぁ。

「早く行こうよ!」

 せかす彼女らだが、残念ながらまだ8時過ぎ。

 開店していないんだ。

 その事を告げると全員露骨にガッカリしてしまった。

 ───仕方ない。時間つぶしとして、アニメでも見て貰うかな…さあて、どのアニメが良いかなぁ?

 ほとんど封も切らずに積みゲーならぬ積みアニメだけど…ヴァイオレットなやつかなぁ…


 9:57


 アニメにドハマリしたせいか、三人は来なかった。

 軽い感じで「姉様行ってらっしゃーい」と画面から目を離さずに言われ、彼女は顔を引きつらせてたよ。

 そして現在、スーパーの前。

「なんか、凄い…」

 彼女が私の肩に座ったままボソリと呟いた。

 商店街入口にあるこの店はそこそこの品揃えと商店街には無いような商品が多数揃えられている。

 そこそこの方は商店街の店とバッティングするものだ。

 ちょっとくたびれた感はあるけれども客足は多い。

 現在もまあまあ並んでいる。

 ───忘れてた。毎週火、金、日は朝市の日だ。

 要は特売日。この並んでいる状態と、おb…お姉様方の殺気を感じる。

「何が起きるの?この人達、絶対一般人じゃ無いよね!?」

 職業主婦、それも高レベルの主婦となると機動隊すら防げないんですよ?

 そして開店時刻となり、入口が開くと同時に…私は店内へと押し流されていった。


「私あのスーパーの子になる」

「売り物に手出しできないよ」

 両手一杯の買い物袋とマイバッグを持ち、フラフラと商店街の中を歩く。

 この時点で家にたどり着けるか不安に成る程キツい。

 ただ、酒は取り置きでも買っておきたい。

 フラフラと酒屋へと入る。

「おう、社畜の趣味人が平日から来てるな」

 入店第一声は罵声だった件。

「何この人…感じ悪いんだけど」

「この店主のおっさんとは高校からの友人で悪友です」

 小声でそう返すと「あぁ、そういう…」と、納得したようだった。

「お前の所からは金輪際買わんぞ?」

 ニヤニヤと笑うオッサンに私はため息を吐き、そう言うと慌てた顔をした。

「待て待て!お前用にって酒もあるんだから!」

 そう慌てるのなら憎まれ口を叩くなよ。

 そう呟いて肩を軽く殴る。

「で?本当にどうした」

「いやあ、昨日付で会社辞めて今月から一ヶ月は年休消化だ」

「は?お前、このご時世にか?」

「もうなんか気力が尽きてなぁ…昨日は知り合いと酒盛りして減ったんで補充しに来た」

「…しゃあねぇな。しかし、そんな荷物で買うのか?」

「午後取りに来るか配達をお願いするか、だな」

「うちは5000円以上なら配達OKだぞ」

「安心しろ一万円以上は買う」

「マジか!」

 そんな軽口を言いながら酒を選んでいく。

「あ!昨日見たお酒ある!これも!ああっ!これ欲しい!」

 辺りを飛びまわって大はしゃぎする彼女を尻目にどんどん酒を取っていく。

「───こんな所かな」

 レジの前に並べられた本数は8本。昨日空けたものの補充もあるが、珍しい物もあったのでつい増えてしまった。

「宴会でもするのかよ…1万軽く超えているんだが」

「下手すると今日も宴会しそうだからなぁ…」

 少し遠い目をする。

「なんだ。お前が自宅に人を招くなんて珍しいな。一万六千百七十円だ」

 二万円を渡す。

「夕方にでも家に届けるよ。四時以降で良いか?」

「ああ、頼む」

 釣り銭を受け取り、酒屋をあとにする。

「…一度家に帰ろう。流石に腕が限界だ」

 外に出た瞬間のジワジワとくる暑さにため息を吐いて私達は一旦家へと帰ることにした。


「ただいま~!」

 玄関のドアを開けた瞬間に彼女がスッと屋内へと駆け込んでいく。

 室内は外よりは涼しい…んんっ?

 冷気が肌を撫でる。

 あー…冷房効いてるぅ…まあ、いいか。

 ソーラーパネルは設置してあるし、趣味に掛けていたといっても通常の食費や交際費を最低限にしていたこともあって暫く余裕はある。

 ならないと思っていたけど、これは燃え尽き症候群かなぁ…

 そんな事を思いながら中へと入り…固まった。

 買い物袋の重さで手や腕が痛いが、それ以上に目の前にいる妖精達の数に固まった。

 聞いた数ほぼ全員いないか?

 リビングにある大型テレビ群がる妖精達。

 うわぁ…と思いつつそのままスルーしてキッチンへと向かう。

 冷蔵庫に購入した物を入れ、一息吐くと三名の妖精がじっとこちらを見ていた。

「えっと、何か?」

「うーん…おじさんは怖がったりいやらしい目で見ないなーって」

「私達、何人かの人に会って話をしたけど、怖がって逃げたり欲望まみれな顔で迫ってきたの」

 逃げるのは分からないでもないが、欲望まみれ…

「欲望まみれとは…一体?」

「うーん…色々ね」

「アップすれば有名にーとか、異世界交易キターとか、あとは色欲で私達を見ている人もいたわ」

「…それって、大きくなった姿で?」

「この姿で」

「それは…業が深い…まあでも、君達も可愛い系から綺麗系までいるから、惚れてしまって暴走していた…と思いたい」

「今のところ姉様と仲良くなった貴方だけね私達が認められるのは」

「いやぁ…他にももう少しまともな人はいると思いますけどねぇ、認められるという事は嬉しいことです」

 しかし、少し疑問がでた。

「異世界交易キターと言った人は、駄目だったと?」

「ええ。独占して儲けようとしていたのよ。しかも不平等な取引で」

 不平等ねぇ…彼女達の平等…不平等の範囲が良く分からないな。

「君達の平等不平等の範囲とは?」

「価値って私達が判断する物であって貴方達が決めるモノでは無いでしょ?」

 なるほど。此方の100円の物が相手が1000円で買いたいと思うモノやその逆もあると。

「それに姉様が言うには貴方はきちんと購入価格を見せているし、その上で私達は選ぶことが出来る。嘘を吐かない対等な取引。これが絶対条件よ」

 簡単なようで難しく、難しいようで簡単なことだ。

「正直な個人取引、と言うよりもお隣さんとの物々交換って気持ちでやるつもりなんだけどなぁ…」

 思わずそう呟くと、

「それが私達の望むものよ?」

 と即答された。

 私自身としては生活が出来る範囲で稼ぐことができれば良いし、もし予想以上の利益が出れば還元すれば良い。ただそれだけだ。

「ま、何事も程々で…ですね」

「それを裏の感情なしに言い切れるおじさんが珍しいのよ」

 それは褒めすぎだと思うんだけどなぁ…

 苦笑いしながらさてお昼はどうしようかと頭を悩ませた。

 なにせ40名近く妖精がいる。

 一人一人は小さくても数が多いと結構大変だ。

 これは───

「お昼は冷やしそうめんにするか」

「なにそれ」

「ええっ?もしかして私達も食べられるの?」

 めんつゆは買い置きもあるし、そうめんの束もある…まあ、全体数量は少ないけど、食べることは出来るかな?」

 私の台詞に大喜びした彼女らは急いでみんなの元へと飛んでいき、「今大事な所なの!」と怒られていた。

 ───大事なシーン、邪魔されたらそりゃあ怒るよねぇ…

 元気な子達の騒ぎ声を聞きながら冷やしそうめんの準備を始めることにした。


 妖精達の分は器一杯分程度だったけど、全体的に満足だったらしく「また食べたい」という嬉しい言葉を多数もらえた。

 いやぁ…しかし、食費が跳ね上がるなぁ!

 片付けを済ませ、再び商店街に向かう準備をする。

「はい!私達行きます!」

 冷蔵庫前で声を掛けてきた妖精達が手を挙げて同行したいと言ってきた。

「良いですけど、姿は消せますか?」

「バッチリ!」「できないとこっちには出てこられないわ」「面白いモノがある所!」

 最後の子、聞いてます?まあ、出来ないとこちら側に出てくる事が出来ないという言葉を信じますか…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る