第2話 妖精達との飲み会。そしてお願い

 グラス複数とお猪口複数、そして缶チューハイを手に自室に戻ると…

「このお人形凄い!」

「えっ?何?何この絵。わわわわわっ!?」

「これ良い匂いよ!」

「駄目よ!おじさんが来るまで我慢して!」

 やっぱり増えていた。

 そんな気はしていたんだよなぁ…だから複数個持って来たわけだけど。

「あ、おじさん!」

「はいよ。おじさんですよ…ほら、お猪口だ。君達の分のお猪口もあるぞ」

 私はテーブルの上にお猪口を全員分並べる。

「来るって分かってたの?」

「公園の時もそうだったから多分そうじゃないかな、とね。念のためその数にプラスして持って来たのさ」

 その台詞に彼女は「流石おじさんね!」」と何故かドヤ顔で言ってきた。

 酒を瓶からお猪口へダイレクトに注いでいく。

「うわぁ…零れずによく出来るわね…」

「まあ、そこは技術だよ」

 全員分注ぎ終えた私はキャップをし、グラスを手に取る。

「まあ、試しに飲んでみて欲しい。この国で作られた酒、日本酒の一つだ」

「じゃあ私から!」

 みんなおっかなびっくり手を出そうか迷っている中、彼女が真っ先にお猪口に手を伸ばした。

 そして俺のように軽く一口。

「冷たっ!美味っ、えっ甘い!?」

 驚いた顔でお猪口と私を何度も見る。

「良かった。口に合ったようだね」

「なにこれもっと!」

 大興奮してお猪口を差し出す彼女に俺は再びキャップを外して注ぐ。

 他の妖精達は彼女の飲みっぷりと感想に驚き、急いでお猪口を手に取って飲む。

「「「!!」」」

 うん。みんな良い反応だ。

「これはもう作られていない特殊なお酒だからな…記念に開けたんだよ」

「えっ?もう、飲めないの?」

 絶望したような顔をする彼女らに私は苦笑する。

「似たような酒は他にもあるし、これが最高!って思えるお酒は沢山あるよ」

 そう言って席を立ち、テーブルの横にある大きめの日本酒セラーに手を掛ける。

「例えば、それと同じ種類…日本酒の中の貴醸酒って言うんだけど」

 1本の黒い瓶の日本酒を取り出す。

「日本酒というのは基本米と水で仕込むんだけど、貴醸酒というのは水のかわりに酒で仕込む。更にこの酒は前年の貴醸酒で仕込み、完成までに100年引き継いでいくという計画で造ったお酒だ」

 妖精達が全員驚いた表情でこちらを凝視する。

「───100年熟成とかではなく?」

「毎年作り続け、毎回前年の酒で仕込む。そしてこれは11年目の物だ」

「かなり貴重じゃないの!?」

「販売していないという点ではさっきの物が貴重品だよ。これはまだ普通に売っているし、無くなったら明日朝にでも注文しておくさ」

「~~~~~~~~!!飲むっ!ああもう!」

 彼女はそう言うと、発光した。

「!?」

 咄嗟に目を閉じ、手で視界を遮る。

 しかしそれをあざ笑うかのように更に三度光が辺りを包んだ。

「もう良いわよ」

 すぐ側で女性の声がする。

「…あー、そうくるかぁ」

 そこには四名の女性が立っていた。


 見た目はエルフ。ただ、本人達は妖精族であり、人との特殊な取引などではこの姿で行うという。

「この姿で飲んだ方がぜっっっっったいに美味しいに決まっているじゃない」

 あ、こいつら酒飲み妖精か。

 マズイ。稀少品やデッドストックが飲み荒らされたら洒落にならない。

 ポートワインとチューハイの出番だ!

「日本酒はひとまず置いておくとして、これが甘いワインで、これが炭酸の入ったチューハイという炭酸アルコール飲料だ」

 テーブルの上にあるそれそれを指して説明すると全員容赦なく開けて飲み始める。

 あ、チューハイは駄目っぽい。

「ちょっと甘いけどこれは美味しくない!」

「なんか自然の味がしない!」

 あー………これはワインと純米系日本酒がメインになりそうな予感ですわ。

「仕方ない…これも出そう」

 私はセラーから中身が赤と白の二層に分かれた瓶を取り出す。

「それは?」

 古代米という昔の赤米を使った日本酒で、しかも濁り酒という限定品だ」

 軽く振って少し灰色がかった桃色となったそれをそれぞれグラスに注ぐ。

「香りは少し独特だけど、飲んだら色々吹き飛ぶから」

 私がそう言うと全員が興味深そうに香りを確認し、少し顔をしかめて首をかしげる。

 色から想像できる香りでは無い。

「飲んだらその香りと味の差に驚くよ」

 自身の分を一口。

 うん。これが米とは絶対に信じられないよなぁ…

 そんな事を思いながらふと、つまみを用意していないことに気付く。

 そして何も考えずにバタークッキーをテーブルの上に置き、一枚。

 うん。美味い。

「私も!」

 全員がバタークッキーを手に取り一口。

 酸味と微かな穀物臭がバタークッキーに混ざり、何とも言えない後味となる。

「これっ!私これ!」

 彼女とは別の子が興奮しているが、酒はまだあるんだよ?

 ───この日は日付が変わってもひたすら酒を飲んでいた。


8月1日(火)晴れ。


 朝6時とともに目が覚める。

 習慣とは恐ろしい。

 ここ数年は目覚まし無しで起きられるようになった。

「さて…」

 酔い潰れて少しとんでもない格好で寝こけている美女達。

「まあ、朝食は食べられるだろうね」

 私はそっと部屋から抜け出し、キッチンへと向かった。

 作る物はいたってシンプル。

 豆腐の味噌汁、ご飯、ほうれん草の和え物。

 以上。

 ───今日、買い物行かないとなぁ…

 冷蔵庫の中、なーんもないや…

 ご飯が炊き上がり、準備をする。

「おーい嬢ちゃん達。朝ご飯だよー」

 言いながら昔母さんもこんな感じで呼んでいたなぁ、と思い出してしまう。

 バタバタバタと部屋から足音がし、ドアを開けて此方にやってきた。

「おじさんおはよう!ご飯まで用意してくれたの!?」

「ああ。お腹すいているでしょう?」

「うん…でも申し訳ないかなぁ…って。昨日あれだけ飲んだし」

 ───ワイン2本に日本酒5本、焼酎に至っては秘蔵の伊蔵さん一升瓶が空いた。

「今更ですよ。朝食まとめて作ったんだから」

 そう言うとみんな笑顔で席に着いた。

「そうは言っても冷蔵庫に物が無かったからご飯のお味噌汁、あとはほうれん草の和え物だけ」

 苦笑する私に彼女らはお味噌汁を不思議そうに見る。

「土?あ、でも匂い全然違うよ?」

「あ、本当!へぇ…」

「言い忘れていたけど、昨日飲んだ日本酒、原料は品種は違うけど、このご飯…お米が原材料だ」

 全員が凄い勢いでご飯を見る。

「えっ?これ!?」

「そうそれ」

「私の知っている穀物じゃ無い…?」

 食い入るように見つめる彼女らに「はいはい食べて」と言い、箸を手に取る。

 彼女らは勿論スプーンを使ってもらう。

「えっ?おじさんはスプーン使わないの?」

「ああ。本来はこのお箸を使って食べるんだよ。ただ、君達は慣れていないだろ?だからスプーンでも大丈夫。ああ、ただご飯とお味噌汁は熱いから気を付けてね」

 そう言って私はのんびり食べ始めた。


「お米凄い…手間を掛けたらあんなに美味しくなるんだ…」

 妖精達はお米信者になったようです。

「さて、朝食も食べたことですし、個人貿易のお話しでもしましょうか」

「あっ、そうだ!」

 わすれてたんかーい。

「おじさんがお菓子とかを私達に渡して、私達がおじさんに金貨とかを渡すって事で良いの?」

「んー…そこなんですが、妖精の方々って幸運を一時的に上昇させる事って出来ますか?」

「えっ?」

 何故に?と言った顔の彼女らに対し、言葉を続ける。

「お偉いさんに話を通したじゃないですか」

「ええ」

「その際にその美しさと超常的な力に目をつけたり、私が個人貿易をすることで何か特殊な物を得るのではないか、もしくは得るように圧力を掛けよう…そんな事を考える可能性もあるかなぁ…とね」

「あー………あのおじさん達、二人とも黒い物が溜まっていたからありえるかも。でも、幸運?」

「ええ。この国では宝くじという物がありまして、それで得た金額を元に菓子や食品、お酒などを購入しようかな、と」

「へぇ…まあ、出来ないことも無いけど、そんなに凄く幸せになる!って事はないよ?」

「程々で良いので。恐らく一、二年位すれば個人貿易については考える余裕は無くなるかなぁ、と」

 扉が開いてガチでそれどころじゃあ無くなるでしょうし。

「んー…そのくらいだったら良いよ」

「これで要らぬトラブルが一つ減りました」

「そんなに危険なの?」

「危険と言うよりも、権力者が何を求めるのか、他国が何を求めるのか…ですね。私は仲良くなった貴方方と個人的なやりとりをするだけですから」

 そう言うと彼女らは嬉しそうに頷いた。

「ああ、もう一つ」

「何?」

「姿を消すことはできますか?」

「簡単よ?」

 カメラにも映らないのであれば一緒に買い物に行けるかな…

 よし。

「では少し試してみて、もし大丈夫であれば一緒に買い物にでも行きますか?勿論小さな姿で…ですが」

「行く!」

 皆さんかなりやる気に溢れていますね…まあ、スマホのカメラで確認してみますか…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る