第4話「ボクの日常」3/3

 5時間労働を終え、やっと家に帰宅。

「ただいまー」

 16とはいえ、さすがにヘトヘトだ。

 二階へ上がろうとしたらリビングから愛理姉さんがひょっこり顔を出す。

「おかえりーアキ。夕飯は?」

「バイト先で食べてきた」

 100円を払えば自分でまかないが作れる。と言ってもパンケーキだけど。(専門店だけに)

 最初は練習がてら喜んで食べてたけど、さすがに二年目になったら飽きる。だけど、飽きてても食べ続けていたら自分なりに回避するレシピが考案されるわけで・・・。今はおかずパンケーキにハマっている。

「残ったりとかは・・・」

 愛理姉さんが物欲しげにじっと上目遣いで見てくる。

 忘れてたとばかりに手に持っているバイト先のロゴが入った紙の手提げ袋を愛理姉さんに差し出す。

「今日は余った生地でオムレットを作ったよ。家族分あるからケンカしないで食べてね。あと、まかないで作ったパンケーキが2枚かなー?」

「オムレットぉ! 中身入ってたりする?」

「ホイップクリームと、店長がジャム使っていいって言ってくれたからマーマレードといちごをそれぞれ」

「さすがアキー!」

 満面の笑みで頭を撫でまわすから髪がくしゃくしゃに崩れる。

「とにかくケンカしないで食べてね。ボク、部屋で着替えてくるから」

 喜んでくれるのは嬉しいけど、さすがにボクももう16だ。ちょっと恥ずかしい。


 上機嫌の愛理姉さんが「了解、了解!」と言いながらリビングへ戻ろうとしたところでまた呼び止められる。

「ね、アキ。良いもの手に入ったんだ~。ふふふー着替えたらすぐ戻ってきてね。スイーツのお礼に特別にアキに選ばせてあげる!」

 ニヤニヤする愛理姉さん。だいたい予想はつくけどきっと期待できることだ。

「じゃー3分で戻ってくる」

「ダメ、1分!」

「えー・・・わかった」

 ヘトヘトだけど・・・愛理姉さんと目でアイコンタクトをとった瞬間、ダッシュで階段を駆け上がって自分の部屋へと飛び込む。



 愛理姉さんからコラボ商品を貰って、風呂も入って、やっと落ち着いて自分の部屋に帰宅。

 パチン、と部屋の電気を付けると、トモセくんのグッズやポスターなどで埋め尽くされた部屋が明るみに出る。

 一日の疲れなんて一瞬で吹っ飛ぶくらいの存在、ボクの推し愛が詰まった部屋、推し部屋。

 すぐさまトモセくんのぬいぐるみを抱えこみベッドに寝転ぶ。

「あ~今日も頑張った! トモセくんのために頑張った!」

 ぎゅーっとぬいぐるみを抱きしめ頭の中で妄想する。


『アキ、今日もお疲れ。オレのために頑張ってくれてありがとう』

 ニコッと優しい笑顔を見せるトモセくん。

 にへーっと口元が緩む。

 ぽんぽんっとトモセくんがボクの頭に手を置き撫でてくれる。

 なんて幸せな・・・。

 実際は自分の手を乗せてるだけ。

 それでもいい。疲れたあとのこの妄想こそがボクにとっての癒し。


 寝落ちかけたところで、ハッと目を覚ましてベッドから飛び起きる。

「やば、愛理姉さんから貰ってたの忘れてた!」

 慌てて机の上に置いてあるクリアファイルを手にする。

 愛理姉さんが大学の近くにあるスーパーで偶然見つけてくれた、購入特典品。

 ラヴず(ラヴ→ず)はデビューしてからときどきメーカーとコラボするんだけど、今回はカレールーのメーカーとコラボして、カレールーをひとつ買うとラヴずのクリアファイルが3種類のうち一枚貰えるという企画。

 ボクもさんざん行きつけのスーパーや高校の近くのスーパーで探したけど人気がありすぎて全然ゲットできなかったんだよね。

 正直、諦めてたのに・・・。

「愛理姉さん、感謝しかなーい!」

 隣の部屋の愛理姉さんに向かって一礼する。

 クリアファイルには青の背景をバックに3人がカレールーの箱を片手にこっちに向かって微笑んでいる。

 トモセくんはアイくんの右横、いつもの控えめな笑顔がかわいい。

「今日はこれを抱いて寝たいけど、一枚しかないから折れたり曲がったりしたら大変・・・泣く泣くクリアフォルダーに収めよう」

 トモセくん専用のひな壇がある棚からクリアファイル用のビッグサイズのクリアフォルダーを取り出し、クリアファイルを大事に大事にクリアポケットに入れて保管。

「これでよし!」


 推し活に協力者は心強い味方。それが姉さんたちなんてボクは恵まれている。(引き込んだのは姉さんたちだけど)

 宿題をやってから寝ようと机に着き30分集中する。

 明日の学校の準備も済ませ、深夜12時を回っていることに気づき慌ててベッドに滑り込む。

 枕元に置いてある色紙を手に取り、折り曲がらないように優しくハグ。

「今日も夢の中でトモセくんに会えますように」

 

 一日の始まりも、終わりも、トモセくん一色。

 それがボクの日常。

 推しがいるから毎日頑張れる、ボクの日常。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る