結界を解かないで
リアは袋に詰め込まれたまま、自分の魔力の抜け落ちる感覚を辿っていた。元々リアは三日間結界を張り続けることが試験内容だったがために、アウローラからの距離は、彼女が結界維持のために魔力の抜ける方角を辿れば把握できた。糸玉はどれだけ糸を引っ張ったとしても、完全に解ききらない限りは糸玉に辿り着く。
(アウローラから結構離れた……この人たちが人買いだとして、私をどうするつもりなんだろう。たしかに結界師は稀少価値高いけれど……)
魔力の抜け落ちる方角からして、既にアウローラから抜け出たらしい。やがてリアは袋と一緒に乱暴になにかに乗せられた。揺れる感触からして馬車。
元々アウローラは世界樹の麓の街であり、森の中にある街だ。そこで馬車の乗れる街道に出るとしたら、北北東の道に出るしかない。
だんだん乾いた砂の匂いがしてきたところで「ああ、まずいな」とリアはじわりと冷や汗を掻いた。
アウローラの北北東は砂漠であり、その先はヤヌスと呼ばれる騎士団の駐屯地どころから、騎士団としょっちゅう紛争している街が存在している。
ただただガラが悪いその街は、盗賊、人買い、密売と、国内のありとあらゆる悪徳が蔓延している場所だ。騎士団としょっちゅう紛争していても、国からの直接介入がないのは、この街が隣国と国境というのも関係している。
下手につつくと、隣国に逃げられる。隣国に犯罪者が蔓延すれば、当然ながら隣国からクレームが来る。最悪そこが火種となってヤヌスとの紛争じゃ済まないほどの戦争に発展しかねないため、両者ともヤヌスへの介入は必要最低限に留めていた。
(私、隣国になんて売られたら逃げ場なんてないし……プロセルピナの惨劇に間に合う訳ないじゃない……!)
これはなんとしても逃げ切らなければならなかった。しかし袋はリアを入れてきっちりと上から縄で縛られてしまっているため、目が見えない上に走って逃げることもままならない。そもそも寝起きのところで誘拐されたため、袋を破くなにかを持ってくることすらできなかった。
「結界師の誘拐なんて、滅多にできるもんじゃないっすよ」
「へっへっ。こいつを売り払ったら、しばらくの生活には困らねえ」
下衆な会話にリアはげんなりしつつも、打開策も思いつかない。それに。
リアが「まずい」と思うのはそれだけではない。
(このままだと……魔力が切れる)
定期的に魔力を補いながら結界を維持し、今もどれだけ遠くに行ってもアウローラの結界が切れないようにしているが、彼女がアウローラから離れ過ぎたせいで、だんだん魔力の抜け落ちるスピードが上がってきたのだ。
打開策はふたつ。
なんとか逃げ出してアウローラに戻るか、魔力を遠く離れても問題ない程度補給するかのいずれかだ。
(アウローラの結界が切れたら、住んでる人たちが困っちゃうし……先生やデュークにどうやって連絡を取ればいいんだろう)
リアは必死に力を込めた。魔力の抜け落ちるスピードがまた上がる。気付いてほしいと、必死で祈りながら。
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