しばらくの同居
リアの精一杯の言葉を、デュークは黙って聞いていた。
「そうか……発掘師を目指していたっていうのに。残念だなあ」
「あははは……女で発掘師を目指すのは大変ですから。周りもなかなか許してくれませんし、一緒にチームを組んで遺跡に潜ってくれる人だって」
「でも結界魔法を習得しているんだったら、引く手数多だと思うがなあ」
「それは……私、騎士団所属ですし」
「残念だなあ」
そう何度も何度も残念がられて、リアは完全に調子が狂ってしまっていた。
(なんなの、デュークってもっと大人な感じだと思っていたけれど……でも私は、彼のことプロセルピナにいたときのことしか全然知らないんだなあ……)
そもそも炭鉱で働いていたのだって、プロセルピナに行くためだったはずだ。プロセルピナで発掘師をしていた死に戻る前のリアは既に発掘師として遺跡に潜っていた年齢なのだから、プロセルピナに辿り着くまでにずっと日雇い労働を続けていたのが気がかりだった。
リアはなんとはなしに聞いてみた。
「でも……プロセルピナに行くまでの資金を稼ぐんだったら、冒険者になってギルドに登録して仕事を受けたほうが、お金になったんじゃ……」
「あれは駄目だ。人間が駄目になる」
デュークがきっぱりと強く言い切った。ここまできっぱりと言い切ることはリアの記憶の中でもあまりなかったはずだ。
リアも冒険者はプロセルピナに一時滞在していた人か、冒険者崩れの遺跡泥棒しか知らないが。リアはおずおずとデュークを見る。
彼は少しだけ怒りで目尻が吊り上がっていた。
「あの……私、余計なことを言いましたか?」
「……いやあ、すまない。忘れてくれ。それより依頼達成を報告に行かないと」
「そりゃそうなんですが……」
デュークはあからさまに自分の苛立ちを流して欲しそうだったので、リアはそれに頷きながらも、元来た道を歩きつつ、ちらちらとデュークを見た。
思えばリアは彼のことを好きだった割には、彼の背景をなにひとつ知らないのだ。
(そういえばデュークといたときは、いつも遺跡や新しい魔動具のことで盛り上がっていて、互いの素性を全然話したことないもんなあ……せいぜい、私が女だって理由でなかなか発掘チームに入れてもらえず、大学でぐずっていたのを見かねたから声かけられたくらいで……チームを組まないと発掘作業はできないから、デュークだってアルナルドさん以外にもチームメイトがいたはずなのに)
リアは心の底から反省した。
好きな人のことは知りたいと願うもの。それもなしで彼を好きになっていた自分を恥じたのだった。
****
リアはそのままアウローラに帰ろうと辻馬車乗り場で待っていたところで。
「よう」
荷物をまとめたデュークに声をかけられ、リアは驚いて振り返った。
「あのう、あなたもですか?」
「さっきも言っただろ。ここには路銀稼ぎでいただけで、長居はしないと。そろそろ次の街に行こうと思ってな。君は? 今はどこに住んでるんだ」
「えっと……結界師さんのところです。今はそこで修行をしている最中ですから」
「ふうん……」
デュークは考え込むように顎に手を当てた。それにリアは「あの?」と尋ねると振り返った。
「庭を貸してもらえないか、君の先生に聞いてもらえないか?」
「はい?」
「アウローラは調べたことがあるが、小さな邸宅ばかりで泊まれるような宿もすぐ定員オーバーになるから。ならいっそ、路銀を調達する間だけでも、庭に泊まれないかと」
「あ、雨降ったらどうするんですかぁ。いくら先生の結界でも、雨は通しちゃいますよ」
「ほら」
そう言いながらデュークは自身の背負った荷物を叩いた……天幕がある。
「天幕をかけさせてもらえる場所があるといいんだけどな」
「ま、まあ……それくらいならば」
たしかにリアがお世話になっているカルメーラの家は小さく、女ふたりでちょうどなのだから、あとひとり入ったらギチギチになってしまう上に、寝場所もない。
そう考えたら天幕を張る場所を貸したほうが建設的なのかもしれない。リアはそう思いながら、彼と一緒にやってきた辻馬車に乗り込んだ。
(……私の知らない時間のデュークも、こうやりながらプロセルピナに向かっていたのかな)
リアが死に戻った影響で、歴史が変わっているのか、これは既定路線なのか、今の彼女にはさっぱりわからなかった。
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