思い出した記憶
第一層から自動カーゴに乗って第五層へと移動する。
この辺りまで来たら、普段であったら出てくるのはドールなのだが。黒光りする鋭い刃を見た瞬間、リアの喉から「ヒュン」と声が出た。
キラー……どうしてリアがその名前を知っていたのかわからないそれが、何故かドールを蹂躙していたのだ。中堅冒険者であっても簡単に粉々に砕くそれに、リアの頬は引きつった。
デュークは冷静にリアのほうをちらりと見ながら、腰の剣の柄に触れる。
「あれ、拘束できるか?」
「……一応拘束魔法は使えますけど。あれは
それよりも強い防御魔法は、もう一介の発掘師の領分ではなく、一流魔法使いの領分であり、彼女の手に負えない。
デュークはリアの挙げた魔法を脳裏に浮かべながら口を開いた。
「なら、一旦、
「は、はい」
リアは緊張しながらも呪文を正確に詠唱する。デュークはいつものようにヒョイッと避けた。
「
途端にキラーは透明な紐で拘束される……が、黒光りする手先のカッターが紐を引きちぎろうとする。キラーが一体悶えている間に、増援がぞくぞくと押し寄せてくる。
それを見ながらデュークはリアの手首を掴んだ。
「こっちだ!」
「は、はいっ……!!」
──駄目だ、今回も失敗だ
途端に、リアの脳裏に瞬いた。
大量のキラーから必死に逃げ惑い、
リアの額からどっと汗が噴き出た。
(なに、今の……まるで、何度も何度も同じことが起こっているみたいじゃない)
思えば、今朝から変だった。
聞き覚えのある声。何故か古代兵器の名前を知っている。まだキラーは遺跡外に出てないにもかかわらず、それが出現して町の人々を蹂躙していく様。そして、遺跡に封印に向かおうとしているリアとデュークの死にかける絶望的な絵。
預言はこの世界では一流の神官しか使えない高度な魔法であり、リアのような一介の発掘師が使える代物ではない。
(でも……私はこのことを知っている。でも……知ってるのになんの役にも立ってない……!)
リアの脳裏を何度も瞬く記憶。それでまたしても吐き気を催す中。リアの手を引いていたデュークの力が急に強くなった。
「……デューク?」
「なにを怖がってるか知らんが。あまり怖じ気づくな。大丈夫だ」
「……大丈夫な訳ないじゃないですか。私たち、古代兵器に一度も勝ててないんですよ? 冒険者だっていない、騎士団だって対処できるかわからない、国の重騎士団だったら、装備が重過ぎて遺跡の中入れないじゃないですか」
「はははは、たしかにそうだ。だが。俺たちが諦めたら、全部おしまいだろ。まだ俺たちは終わってない」
その言葉は、たしかにペラペラに軽く、ゴーレムを必死になって壊したときに拾う装甲のように、意味があるのかないのかわからないものだったが。
それは手袋越しに感じる彼のぬくもりのように温かいのだ。心地いいのだ……離れがたいのだ。
「……あのですね。デューク。今朝から私、変なんです」
信じてもらえるかはわからないが。リアは黙って今朝から見ている夢の話を口にした。
「うん? やはり体調が」
「体調は悪くないですね。ただ……黒光りする古代兵器……夢の中だったらキラーって言ってました……それが遺跡から出てきて、町の人たちを殺して回る夢を、見るんです……私、今日初めて見たばっかりなのに、変ですよね……全然、それが初めてに思えないんです」
「……明晰夢か?」
「へっ?」
デュークは走りながら、冷静にリアに声をかける。
「明晰夢は、予知夢とも言われている。アルナルド氏がくれたその魔動具」
「あ、はい」
時間を巻き戻すと言われている魔動具は、検証実験が進んでいないため、それを使ったらどうなるのかがわからない。だからこそ、それで遺跡が起動する前に巻き戻そうとするのが、今の作戦だが。
リアはそのラッパのような形の魔動具が背負っている鞄にあるのを確認していると、デュークは持論を展開しはじめた。
「あれが本当に巻き戻っているんだったら、もしかするとリアは巻き戻る前の夢を見ているのかもしれない」
「巻き戻っても……巻き戻る前の記憶がなかったら、あんまり意味がなくないですか!?」
思わず悲鳴をあげそうになるが、デュークは笑う。
その笑みを見て、リアは思わず胸を抑えた。
「……少なくとも、お前の無事だけは確認できたからな……逃げてくれたらよかったのに、こんなところまでついてきたから」
「……デューク。私は」
「行くぞ。あと四層。その先に封印すべきものがあるんだから」
「……はい」
──お前だけは、どうか
あの声。知っている声だとはリアも薄々勘付いてはいたが。
(デュークのものだ。私……デュークを置いて、時間をやり直した後だったんだ……!)
必死に走っているデュークに対して、リアは脳裏を掠めた嘆きを伝えることができなかった。
……自分たちは既に失敗するかもしれないということを。それでも、最下層に行かなければ、時間を巻き戻してやり直すことすら、できないのだということを。
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