遺跡泥棒

 デュークとリアは、急いで荷物を背負って遺跡へと向かう。頭に魔動具の灯りを付けると、そのまま走りはじめた。

 第一層はまだ発掘師としても修復師としても勉強したての学生たちがわいわいしていて、ふたりが必死の形相で走っているのを怪訝な顔で見られる。


「あのう、遺跡の中を走るのは……」


 引率らしき大学の講師に咎められ、リアは「すいませ……」と謝りかけた瞬間、デュークが声を張り上げる。


「すぐに遺跡から出て、できるだけ離れてください! 遺跡泥棒が出ました! 魔動具が暴発する恐れがあります!」


 それに顔を引きつらせた講師が、手を叩いて学生たちに呼びかける。


「急いで出口に向かって! すぐ出られますから!」


 慌てて外に出て行く学生たちを見ながら、ふたりは手袋を嵌めた手で壁をペタペタと触りはじめる。

 遺跡の構造は、少しずつ発掘師たちが解明していっているものの、未だに大学の学生たちの教えられていないものも多い。

 特に第五層に降りることのできる自動カーゴを発見した際は、学生が降りても対処できないからと、箝口令が敷かれていた。


「第五層まではこれで降りられるが……」

「最下層ですよね、遺跡泥棒がいるとしたら」

「……ああ」


 プロセルピナの出入り口は学生たちが講義の一環で見学をしていた北側以外に、東、西、南の出入り口が存在している。

 既に発掘師たちの声で他の出入り口は閉鎖がはじまっているはずだが、最下層に当たる未だに詳細の掴めない第十層に降りるのに一番早いルートは、自動カーゴのある北側のはずだが、どれだけのスピードで向かっているのかわからないのが難点だ。

 特に第四層以降の遺跡内容は混沌としていて、未だに解明されていないものも多い。第十層に至っては学者たちの意見が割れているせいでほぼ手つかずだ。どんな危険が待ち構えているのかがわからない。

 なによりも。

 ふたりはカーゴに乗り込んで急いで第五層に乗り込んだ途端、「グギギギギギィ……」と音が響いた。

 古代兵器。呼び方がほぼ見当たらないため、皆に一律でそう呼ばれている。

 遺跡発掘に来たベテランの冒険者たちすら苦しめ、勉強だけしている学者たちだけではほぼ対処ができないそれらは、第四層以降からポコポコ現れて、発掘作業の妨害をしていた。

 最初は壊してしまい、それらを慌てて復元師の元に持って帰ると、それらは自動再生するという特性があるということが判明した。以降定期的に壊されては再生する様を観察し続け、これらにより遺跡を守っていると推測されるようになった。

 古代兵器の中で、第五層を守っているのは、茶色い薄い金属に覆われた人形であった。それらは発掘師たちにより「ドール」と呼ばれていた。


「本当に……あいつらはどうして現れるんだろうな。再生だって、無限にできる訳じゃないって判明しているのに」


 そう言いながら、デュークは腰に差した剣を引き抜いた。そして背後にいるリアに言う。


「あいつらと正面から戦っても数が多い。あいつらの動きを一旦止めたら、第六層の階段まで走るぞ」

「はいっ……!」


 ディーノが剣を振り上げる。彼の戦い方は冒険者たちのように、森や草原など広い場所を想定した戦い方ではなく、狭い通路で戦う完全に遺跡内特化の戦い方をしていた。

 最小限の動きで、ドールの関節部に刃を当て、動きを鈍らせる。

 その間にリアは呪文詠唱をしなければならなかった。

 リアは剣を持たせると重くて動きが鈍くなる。ただでさえ、発掘作業には荷物が多くいるのだから、武器まで持たせるとなったら重量オーバーになるのだ。しかしスコップやシャベルを武器代わりにして、肝心の発掘作業に使えなくなったら困ると、困り果てた末に大学で古代呪文を研究しているゼミに行き、必要最低限の魔法を学んだのだ。

 本当に必要最低限で、冒険者であったらきっと困るだろう魔法しか取得はしなかったが。発掘師であったら充分であった。


拘束レストリクション……!!」


 リアの呪文詠唱が完成した途端、ディーノは慣れたようにひょいと屈んだ。彼女の詠唱が一気にドールたちの周りを取り囲んだと思ったら、魔法の紐が彼らを締め上げる。

 ただ動きを止める以上の効力はなく、壊すことも完全停止させることもできない。しかし時間稼ぎには充分だ。

 ふたりは一気に走りはじめた。


「遺跡泥棒、まだいませんね……!」

「このまんまどっかの古代兵器に吊し上げられてくれてたらいいけどな」

「それシャレになりませんからねっ!?」


 冒険者崩れの遺跡泥棒は、さっさと詰め所にいる騎士団に引き渡さないと何度でも同じ過ちを繰り返す。

 プロセルピナは遺跡のための街どころか、遺跡の上に街なのだから、下手に刺激されて壊されたら困るのだった。

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