遺跡探索
ひとまずリアとデュークはアルナルドの話を聞く。
アルナルドは第十階層の地図を広げて言う。
「第十層も未だに発掘者が踏破できてないせいで、地図も穴だらけだね」
「それだけ罠が多いんです。俺たちも命は惜しいですから」
「命惜しくない者が発掘者なんてやってられないからね。この魔動具だけれど」
そう言いながら、アルナルドはひとつの魔動具を取り出した。それは以前に第十層に探索に出かけたリアが見つけてきたものだった。修復師では全く歯が立たなかったそれを、復元師であるアルナルドの手により、どうにか完成形が見える形になったが、前に来た時点ではこの魔動具がなんなのかは判明していなかった。
「この魔動具、ただ振動だけするんだよ」
そう言いながらスイッチを入れると、途端にブブブブブと揺れ動く。振動だけではなにをする魔動具なのか特定できない。
「他の魔動具みたいに、これひとつじゃわからないって感じでしょうか」
「おそらくは。ただ、第十層の別の場所に仕掛けていた罠を持ち帰ってもらったけど」
「はい。第十層は他にも増して、罠の数が多いんですよね。それだけ重要拠点ということは、それだけ過去の遺産の中で重要なものが……」
「それだけれど、これはむしろ逆じゃないかなと推測している」
「逆とは……?」
「この遺跡を破壊する装置なんじゃないかと踏んでいるんだよ。罠がこれだけ多かったら、回収なんてできないじゃないか。それにひとつふたつの罠だったらいざ知らず、全部の罠が発動していたら、この遺跡が第十層から崩れてもおかしくない」
そうアルナルドにきっぱりと言われて、リアはぞっとする。
遺跡の浅い場所は、大学に通う学生たちが発掘とは程遠いフィールドワークをしているし、そもそもプロセルピナだって遺跡の上にある街なのだ。遺跡が壊れてしまったら、街だって跡形もなく崩れてしまう。
「私たち、また潜らないといけないのに怖いじゃないですかあ……っ」
思わず涙目になってリアが抗議するが、アルナルドは申し訳なさそうに顔を傾けるだけだった。
一方デュークは考え込むようにして腕を組む。
「だが……やはりこのことは管理者にもう一度直談判したほうがいいのでは。もし遺跡に万が一のことがあったら、金儲けどころじゃなくなるでしょ」
「そ、そうですよぉ!」
デュークの言葉に、リアも必死で言うが、アルナルドは困った顔をするだけだ。
「自分もそう思うから説得してるんだけどね。金の亡者は本当になにを言っても無駄で」
「そこはもうちょっと頑張ってくださいよ」
「うーん……」
そう他愛もない会話を繰り広げている中、ドタドタと廊下を走る足音が響いた。基本的にここには壊れたらまずいものばかりがあるため、よっぽど急いでない限りは大学内を走る人間はまずいない。
「失礼します! アルナルド先生大変です!」
息を切らせて走ってきたのは、どうも大学生らしき女の子であった。全身で息をしている。
「どうかしましたか?」
「……第十層を……遺跡泥棒が侵入しました……!」
「……はあ!?」
それに全員顔を見合わせた。
元々管理者があまりにも金儲けに走り過ぎて、一時期は各地の冒険者を募っていたが、冒険者たちでは知識が足りず、魔動具を暴発させる事故が多発した。学生を事故に巻き込むのかという大学からの苦情、魔動具がどんなものなのか確認してからじゃなかったら下手に触ると壊れて復元もできないという修復師や復元師からの苦言によるものだった。
なによりも現場に向かう発掘師たちが、罠にかかったり事故に巻き込まれたりした冒険者たちを回収に行かなくてはいけないため、本業に集中できない。
しかし儲けを忘れられない冒険者たちが不法侵入して遺跡を脅かすようになってしまった。冒険やロマンを忘れて金儲けに走るのでは、もはや彼らを冒険者としては認められない。遺跡泥棒として揶揄すべきである。
しかもよりによって、第十層の危険性を聞かされた上でこれなのだ。
「行くぞリア」
「は、はい……!」
「……行くんですね」
「俺たちでなければ止めきれないでしょうから」
「……くれぐれも頼みますよ」
アルナルドに見送られ、ふたりは慌てて復元室を飛び出していった。
デュークはちらりとリアを見る。
「大丈夫か? 顔が真っ青だが」
「……真っ青にだってなりますよ。だって、第十層は今危ないって聞いたところじゃないですか。もし……空気を読まない遺跡泥棒がなにかしたら……」
「そのときは、俺たちで殴ってでも止めるべきだな。ほら、急ぐぞ」
「……はいっ!」
正直、いくら仕事だし天職だとは言っても、怖いものは怖かったが。それでもやらなければならないことがあった。
(絶対に、止めるんだから……!)
──お前だけは、どうか
何故かリアの頭に、今朝夢で聞いた声が頭を掠めた。
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