発掘師と復元師

 ひとまず潜る前に、リアとデュークは一緒にチームを組んでいる復元師の部屋を尋ねることにした。

 遺跡の上に存在しているプロセルピナでは、大学すらも遺跡の真上に建っているため、その一室まで行くのは楽なものだった。

 一室の扉をデュークが叩く。


「失礼します」

「ああ、どうぞ」


 穏やかな声が返ってきた。ふたりが扉を開けた先には、大きなテーブルに大量に乗せられた古いもの。それらはルーペを当てられ、一部はピンセットでばらばらにされて並べられていた。この部屋に入ったら、震動にすら気を付けなければ、テーブルに並べられたものが飛んでしまう。カケラひとつですら、無くしてしまったら大変なことになる。

 それらをひとつひとつ並べていたのは、白衣を着た煤けた茶色い髪の壮年であった。


「アルナルド、先日俺たちが発掘してきたもの。あれがなんだかわかりましたか?」

「やあデュークにリア。あれは驚いたね……理論上では存在していたものの、実現はほぼ不可能だと思われていたものだからね」

「不可能……ですか」


 ふたりが遺跡で発掘してくるもの発掘してくるものは、とにかく形がよくわからず、修復師や復元師が協力しなければ、いったいどんな魔動具かすらわからないものだった。

 ちなみに修復師は少し壊れているだけで、少し修復すれば直せるものを扱う者に対し、復元師は完全にバラバラになってしまっているものを、残っている資料を基に組み立てて使える形になるよう復元を試みる者を差す。

 潜るのが浅い第一層から第三層くらいまでは修復師たちの作業でなんとかどんな魔動具なのか特定することが可能だが、第四層以降になったら、魔動具の保存状態も古くなり過ぎてあまりよろしくない。復元師に見てもらわなかったらなんなのかがわからないのだ。

 リアはアルナルドが組み立てたものを眺めていた。まるでドリルのように見えなくもないが、これが魔動具と彼が言わなかったら信じられない。


「これってなんですか?」

「ああ。時間を巻き戻る魔動具だよ」

「時間を巻き戻るって……そんなことできたら大騒ぎですよ」

「理論上はそうなっているんだけれどね。実験を重ねてみても、これの使用条件がよくわからなくてね……」

「じゃあ本当に時間を巻き戻せるかわからないじゃないですか」

「これ、リア」


 デュークに軽く髪をはたかれる。リアのポニーテールがプルンと揺れる。

 ふたりの態度に、アルナルドは「ハハハ」と笑いながらも「しかし……」とすぐに真顔に戻る。


「はい?」

「最近発掘されてくる魔動具を観測していると、だんだん用途が不鮮明なものが増えてきてね」

「そういえばそうですね?」


 第三層までは、魔力を溜め込む装置やら火や油を必要としない照明やら魔力を注ぎ込んだだけで便利に使える数々の魔動具だった。これらは修復師によりつくられ、復元師により再現されて商品としてプロセルピナ外でも幅広く使われるようになっている。

 しかし第四層以降は変なものが増えた。あからさまに罠が増え、一流の発掘師でなかったら罠を解除して突破することすらかなわなくなるほどの。その罠の向こう側にどんなものがあるのかと思ったら、人が動いているのを写生する道具やら、集音器やら。かと思ったら魔力に反応して発動する罠があったりと、とにかく訳がわからなくなり、発掘師も組んでいる修復師や復元師に品を持ち込まないと持ってきたものがなんなのかがわからなくなった。

 現在調査を進めている第十層に至っては支離滅裂で、どうして使い方不明の時間巻き戻し機があるのかがわからない。

 それにアルナルドは口を開いた。


「だから、これについては遺跡をつくった人間による警告じゃないかと踏んでいる。現代文明よりも明らかに進んだ文明が滅び、遺跡だけ残されている以上、ただ事じゃないことが起こったことだけは推測できるのだから。時間戻し機が見つかったのだって、これは今なら引き返せるから辞めておけって警告じゃないかと踏んでね。大学でも一旦会合が開かれたんだよ」

「それ……俺たち聞いてません」


 デュークが抗議をする。元々は自分たちが見つけてきたものが原因で行われた会合な以上、当事者が知らないのは問題だという意味だったが、それにはアルナルドはあっさりと「すまないね」と謝った。


「だが、君たちの活躍を批難した訳じゃない。むしろ感謝しているくらいなんだよ。大学としては、これ以上の発掘調査を進めれば、いつか必ず発掘師たちに被害が及ぶから、発掘調査の中断を管理者に持ち込んだんだよ。だがねえ……」

「あの管理者が聞くんですか、それ」


 大学からしてみればパトロンでも、関係者からしてみれば管理者は金の亡者だ。過去の文明から次から次へと金目のものになる魔動具を発掘してきてくれるのだったら、魔動具入手の機会である発掘調査の中断なんて、冗談じゃないと突っぱねるだろう。

 アルナルドはがっくりとうな垂れた。


「そうなんだよ。『まだ問題が発生してないからかまわない』の一点張りでね。こちらの推測を聞きやしない」

「でも……これは他の発掘師にも通達すべきでは?」

「既にしているが、地下に潜っているチームにはまだ届いてないだろうからねえ……」


 三人揃って、管理者の職務怠慢にうんざりと溜息をついた。

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