苛立ち
ラウンジに着けばケントにアランにクルー、それから知っている顔が何人かいた。
おれは少し離れたところに座り、ドローンが映している情報を一通り確認することにしたが、どの記事にもどの放送にも出てくるのは『リジー帝国への反逆か?』『百鬼夜行の正体は第四世代リジー?』という疑問形で塗り固められたクソのような情報ばかりで見たくなくなった。
娯楽だ。死んでもなお生かされるというのは、まるで聖戦記と同じだ。
「結晶の序丘は永久に立ち入り禁止、というか消滅した今は死語か」とアラン。
「ニレンがやったにしてはかなり荒いが、相手がリジーなら手加減できないだろうな」と言うケントはおれを見てきた。
結晶の序丘が消えた理由なんざ知らねぇ。しかし不思議だな、おれが昨夜目にした結晶の序丘はピンピンしていた、ということはあの後ニレンは誰かと戦ったのだろう。
こんなときはカグヤ姫様に会えば何か答えてくれそうだ、と思ったが、無理難題を押し付けられそうで会いたくもなくなるな。
おれは寮を出るために席を立ち、出入り口目指して迷いなく進むはずだった。
「結局のところ、リジーは裏切り者だったんだろ?」
おれの足を止めるには十分な文字列だ。おれに迷いはなかったのに、迷いこませるのは誰だ。
「死体は無く片目だけしか残らなかったらしい、しかしその目に神生国のAR技術が装着されていた。残った目はDNA分析の結果、リジーのもので間違いなかったらしい」とケント。
「残ったモノは証拠か。視界に収めた情報を神生国に送信していたなんて酷いもんだ。黄金期の
面白い、何もしなかったどころか何も知らない奴がよくしゃべる。お前らはおれと同じだ、恥を曝して生きていると思ったら死んでいる、終いには他人の所為にして己を棚に上げる。ニレンの真似事は楽しいよな。なぁ、もっとおしゃべりしろよ英雄のなり損ない。
「リジーがそんなことするはずねぇだろ」おれは間違いなくいつもより苛立っている。
誰を信じられる? この戦の世で誰が一番正しい? ――ニレンだよな。あいつが何もかも正しい、あいつの言うことを聞いていれば長生きできる、あいつは神を殺す悪魔を殺す結晶人を殺すなんでも殺す。結晶人ニレンこそが穢れた結晶の使徒だ。
ああそうだ、おれはおれに苛立っているんだ。英雄のなり損ないどころか結晶人のなり損ない、おまけに何もできない恥曝しだ。おれのような結晶人は他に存在しない。
「アザミ、そんな怒るなよ……なぁケント、事実は小説より奇なりだよな」
と言ってくる奴に言ってやりたいことがある、誰だお前は、お前みたいなクソの名なんぞゴミクソのおれですら憶えてねぇよ。悪いが顔なしの背景は無理しても思い出せないんだよ。
「アザミの気持ちは分かる。でもな、おれたちの自由っていうのは聖戦に勝つことでしか許されない――他の選択肢はないんだ」
ケント、お前は優しすぎる、おれがいつ聖戦の話をした? リジーが悪者扱いされている話をしてんだよ。リジーは神生国と帝国の戦争にうんざりしていたから他の選択肢を示そうとしたんだ。なのに何だこの檻に入れられた動物どもは……己と闘わないで戦争ばかり語って、ニレンの真似を始めたら自ら首輪を嵌めてワンワン吠えて、嚙ませ犬であり負け犬のおれにバカにされては講釈垂れる。お前らは最低に優しすぎるぞ。
「そう、聖戦に勝つことでリジーも報われる」と名無し男。
どうしてこころの無い者にリジーが罵られているんだ、どうして何も知らない奴らが死者を罵って賢者面しているんだ。なんだこれは、これが本当にヒトという生き物なのか。
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