朝の日常
<morning>//これは現在から少し前の話。
あくる朝、空砲だか段雷だかのやかましい花火の音でおれは目を覚ました。
朝っぱらからうるさくしやがって、建国記念祭だか式典だか知らんがいま何時だと思っていやがる。と、時計に目をやれば午前九時ではないか。始業時刻を一時間過ぎてのお目覚めとは良き夢を見ていたのだろう。
「ああ、クソ」
今日もおれの朝一番の挨拶は『おはよう』ではなかった。最悪な日の始まりはクソから始まり、好きでもない酒と大嫌いな食い物を飲み食いしてゲロに終わる。昨日もそうだったから、今日もそうなのだろう。それが言葉であれ物質であれ、生物の穴から出るもので間違いない。
な? おれはキレているだろ? いや、切れ痔ではないぞ、感情的にキレているとか頭のキレとかの方だ。うむ、おれはまさしく天才級のバカであろう。
と、寝台の上で天井を見上げていた時、
「おう、アザミ。起きていたか」
そう言っておれの部屋にノックもなしで入ってくるのはケントだった。鍵をかけていないおれが悪いわけだが、ノックくらいはしてほしい。ビジネスエチケットも出来ないようじゃ、おれのように自分のケツも拭けなければ、ケツを他人に擦り付けるような奴になってしまうぞ。
「ああ、今起きたってことは今日も仕事に遅刻らしい。東地区担当の警備隊長殿になんて言われることか……と想像するとぞっとしない」
「心配いらないんだろ? なんたっていつものことだからな」
「そうだ、いつものことだ」いつもだらだら、いつもへらへら、いつもホラホラ。羊も飼わない嘘つき少年が狼を飼育して村に放ったところで嘘つき少年が犯人だとも思われないね。
「祭を回りながらの警備だぞ。怪しい人物がいたら目をつけるだけでいい、簡単な仕事だろ」
そりゃあ簡単だろうな。しかしおれには簡単ではない話になってくるわけではないかな? そのことについて反論できるかね、
「めんどくせぇ」
「そう言うお前に向けて――『建国記念祭が終わるまで警備の邪魔にならないようにサボれ。次の仕事が見つかることを祈っている』という東地区の警備隊長からの言葉を伝えといてやる」
今頃になってお祈りするんじゃねぇよ。どこの宗教だ、警備教か? それともクリティアス警備協同組合か? まったく笑えないな、ここは人と神で支える神生国じゃないんだ、帝国だ。
「クビか」
「そうらしい。で、どうするんだ……」
これでおれは東西南北を制覇してしまった。全国制覇の前にエーテルを制覇してしまうなんて噂が立ったら、おれは暴走した族から崇め奉られること間違いなしだろう。なんたって帝国最強のニレンを超えたということだからな。
「アザミのフラットな日々は続くのであろうか。『終劇』」
「残念ながら終わっては困る。それにお前の日々はフラットな日々でもないし、仕事して稼がなくちゃ痩せ細って死んで終わりだ」
「なんだよ、ちゃんと終わっているじゃねぇか」
「そんな終わり方じゃ困るだろ。エーテルには仕事が山ほどある、その仕事のどれもが結晶人にとっては準備運動にもならない楽な作業だ。お前は戦場に出るわけでもないんだから一時間や二時間くらい働いても死なないだろ」
だろうな。さっきも思ったけど、おれにはその作業が苦痛でたまらないんだよ。いやいや、被虐的な『苦痛がたまらなく気持ちいぃ』じゃなくてだな、居ても立っても居られないという意味の方であって、おれは決して肉体的苦痛大好きストレス大好きな被虐性欲者ではない。
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