朝の日常2

「仕事なんざAIに任せとけばどうにでもなるだろ」


「ここは神生国じゃないぞ、人工知能なんて機械技術やら工業技術やらはあちらが専売特許だ。つまりここは帝国で、人間はおれたちの創造主で、仕事は結晶人のものだ」


「帝国は言語技術が遅れているだけだろ。共通言語エスペラント語だけを知っていれば人間とのコミュニケーションは簡単だ、しかし機械と会話するとなるとエスペラント語だけじゃ足りないんだよ」


「はぁ……」とケントはおれのようにため息をつき、「どうでもいいから仕事しろ」失礼さを感じさせるほどの、疲れ果てたような表情で言ってくるのだ。


 仕事は結晶人がやるものだろうけど、仕事をクビになるほど使えない結晶人がおれの他にいるとでも思っているのか。自慢じゃないが、おれは人間共に造られた失敗作なんだぞ。


「仕事しなくても生きていける。ホームレスにでもなって他の結晶人に助けてもらうさ」


「ホームレスってなんだ? 住むところがないってことか? 死語だろ」


 その通り死語だ。現代でその死語におれはなろうって話しだ。犬や猫にも住む家があるのに、獅子のおれには住む家もテリトリーも許されない。権利の剥奪は全ての生物が背負う道だ。


「他人の生き方に口出すことは禁忌タブーってものだろ。何より、結晶人が禁忌に手を染めるなんて<血と結晶>が許さない。ということで、禁忌は人間様が犯す領域なんだよ」


「お前の生き方は死に方だ、だからうるさく言わねぇとおれがうるさく言われるんだよ」


 何を言うかと思えば、人間も結晶人も生命なんだから遅かれ早かれ死ぬだろ。生き方も死に方も意識次第だし生命次第だ。うるさく言われたとしても戦場で果てるのが結晶人だぞ。


「スパルタ教師リジー様に言われるってか?」


「その通り、他に誰もいないだろ」


 ほほーん、そうかそうか。リジーはお人好しらしいからおれを拾ってくれそうだな……しかし飼われたら飼われたで毎日のようにニレンの話を聴かされるとなると死にたくなりそうだ。誇り高き獅子の嫉妬はどれほど惨めなものなのか、そう考えるだけでも獅子奮迅の引きこもりになること間違いなし。


「家畜が家畜を飼う時代は変わらないようだ……いつの時代でもヒトの意識を操作しようとする奴は自分が操作されていることに気づきもせず説教を垂れる」


「それを言う相手はリジーにしてくれ、おれは怖くて言えない」


「自分で気づかないのは重傷だ」(怖いのはおれも同じだ、冗談をリジーに言えるはずないだろ)


「……まあ、お前の好きにやればいい。てことで、おれは式典まで街をぶらぶらさせてもらう」


 と、ケントはおれの部屋から出て行こうとしたところで、何かを思い出したらしくおれに振り返った。


「今日は同期たちが集まるのを忘れてないよな。ニレンとか第一世代ゴートとか第二世代ニフティは来ないけど、第三世代スール第四世代ノヴァで休暇をもらっている連中は集まると思う。お前も来るんだろ?」


 かつて部隊を同じくした者たちの集まり。誘われたということは忘れられていないということで、喜んでもいいことだろう、しかしおれの場合は忘れられていた方が嬉しい。


「ああ……まだ考え中」


「どうせ暇なんだから、今回は自分の足で来いよ。あと仕事をクビになったんだから式典には絶対来い、人間もほとんどの結晶人もお前の事を憶えていないんだから、最前列で踏ん反り返っていても誰も気にもとめねぇぞ、席は空けとくからな」ケントは言葉を残して出て行った。


「はぁ」とため息をついたおれは、「仕事クビになったおれが暇なわけねぇだろ――クソ」


 ボロい借家、隣は家畜小屋、おれはひとりきりで吠えていた。悪いのはセカイではない、悪いのは社会ではない、悪の根源はおれだ。


<気づかないのはおれも同じだったが、気づいていたところで何か変わったのだろうか……>


</morning>

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