お礼
「ぼくが命を懸けて仕入れた情報だよ」
「おお、そりゃあたまげた」
おれは察した。大英雄となる前にニレンは大神を殺した、その時に大神と話したのだろう。神に浄化された土地ではスパイ活動もまともに出来ない、神生国の情報を持っているのは神生国だけ。神生国の情報を与える者は神生国の裏切り者かアホな神のいずれかしかいない。
「そこまで信用できる情報なら上の連中から下の連中へと自然に流れてくるものだろ」
「帝国で知っている者はさっきまでぼくだけだったよ」
「ほー、そういうことか。これで知る者はふたりになったわけだ。今の支配層の連中に黙っていていいのか? 最初に話すべきはおれじゃないだろ」
「少し早くアザミに教えてあげたら、その豊かな想像力でまた新たな発想をしてくれるかなって思っただけだよ」
ははん、珍しく褒めてくれるじゃないか。しかし生憎とおれは想像力豊かな妄想を発症している者だからな、お前が期待するほどの発想は出来ないね。
「冗談はよせよ。どうしておれに教えたんだ、噂にされたら困るだろ」
「冗談ではないし困りもしない、ぼくからのお礼だよ」
と言うニレンの顔面に、おれは熱々のピザを投げつけてやりたい気分だ。
「謎だな。今の軍上層を信用できないだけだろ」
「それもあるだろうけど、ついさっきまでひとりで情報整理とか謎を解いたりしていたから……いいや、この話は長くなるから置くとして、今の軍関係の人間に情報を伝えたところで無駄なんだよ。そこまで難しい話じゃないんだけど、簡略化された情報じゃないと今の大元帥の方々は聴いてもくれないからね」
だろうな、今の軍上層の連中じゃ話にもならない。人間の中で一番まともで、結晶人の話を聴いてくれるのは皇帝様くらいだ。しかし皇帝様は体の病に加えて心の病にも罹ってしまわれたので結晶人は面会すらできない、加えて皇帝様の側近にいた支配層のまともな方々も謎の失踪に遭った。今の支配階級を気取っている上流階級はバカ殿の振る舞いで忙しいだろうよ。
「支配層は簡単じゃないってのにな、今まで上層の一般人で過ごしてきた人間が浅い経験で支配層の仕事をやるもんじゃないぜ。病気でもない人間が頭に加えて体も悪くなれば、結晶人の優秀な人材が急速に戦場で死んでいく」
「確かに昔よりも侵攻作戦は増えたかもね。それで、話が脱線してしまったから話を戻すついでにぼくが伝えたかった情報を簡略化させてもらうと、<エンルルの塔計画、それとクリティアスの塔計画の再開は明日に発表される>それだけの簡単な情報だよ」
「うぇ、マジかよ」
「うん、上は本気だよ」
バベルの塔建設再開だと、資源を溜め込んだから再開するってことか? しかし急すぎるだろ。ほんと、今の人間共はまともな頭をしていないな。
「じゃあお前は、『バベルの塔の頂上で神々の王を殺すことを誓います!』って、明日の晴れ舞台で宣言するつもりか? それとも『バベルの塔を破壊してぼくが神になります!』って?」
「まさか、ぼくは何も言わないさ。エンルルの塔計画やバベルの塔建設再開の発表は普通に情報媒体での発表になるはずだよ。明日になれば分かることだけどね」
と、ニレンはそうなることを願っているらしい、おれはといえばニレンの晴れ舞台で発表されることを願っている。なんたって<バベルの塔完成=長い聖戦に終止符を打とう>って意味が含まれているからだ。人間たちの娯楽は減り結晶人の舞台は幕を閉じるだろうけど、戦争が終わるなら万々歳だろう。
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