大虐殺の大英雄

「ははっ、何を言ってやがる。帝国で一番強い奴が帝国で権力を持っている奴らの命令に従っただけだろ。そしてセカイもニレンという男を認めた。今のお前は帝国だけじゃなく神生国でも有名人だ。もっと喜べよ、というか一度くらい喜んでみろ」


 おれがそう言ってやると、ニレンは疲れたような顔で深く息を吐いた。そりゃあ喜べないよな、なんたってお前は人形みたいな奴だから、笑う時も悲しくなる時も化粧が必要だろうな。


「帝国民の中には、ぼくのことをこう話すヒトたちがいる――『大神を殺した大英雄ニレンは帝国で名誉を得て、セカイで不名誉を得てしまった。戦争で命を奪っている大英雄も元を辿れば大虐殺の王様ってことだ』とね。アザミ、君の言う通りだよ」


「おお……情報がお早いですねぇ。でもそれでいいだろ? どちらにせよセカイは認めたんだ」


「陰口は止めた方がいいよ。『帝国内でも不名誉は変わりない』って皮肉だろうけど、君の言葉を素直に受け入れてしまう大人たちや子供たちは『大虐殺の大英雄』と、本心で喜びながらぼくに向けて万歳三唱してしまうんだ」


「素直が過ぎるのはいけないな。言葉の裏の裏を読めない奴は大英雄になれない」


「そんなことでは君の評判に悪影響が出るよ。何よりも、ぼくに精神的な攻撃は危険なんだ……効果抜群の意味でね」


 ニレンはこうして冗談も言えるが、ヒトを笑いに誘うような顔もしなければ声音もほぼフラット、だから冗談も笑えやしない。根っからのクールビューティは孤独の原因だぜ。


「精神攻撃したかったに決まっているだろ」


「そうかい。なら人々を喜ばせてくれたお礼と共に、ぼくから『ありがとう』と言っておくよ」


「ははっ、皮肉だねぇ」とおれは笑ってみせた。お礼を言われることはしていないからこそ、ニレンの<ありがとう>は労いの言葉ではなく復讐の言葉なのだろう。感謝の言葉も元を辿れば音波だ。やはり裏を読まないと英雄にはなれない、裏の裏を読まないと大英雄にはなれないな。


「戦争の目的は殺しではない、けれど帝国民は勘違いしているみたいだ。アザミもね」


「英雄を目指すなら戦争で活躍する以外に方法はないぞ。機械仕掛けの神が殺されたとしても、お前が舞台で神のような振る舞いをすれば――」


 ころころ転がる頭も、腹部から飛び出た臓器も、炭のようになった肉体も……戦場ではそれらが正義であり遺される形だ。おれが脳内に記憶した戦場の景色はグロテスクなものであるが、生き残ってしまえば美談と絶景の祇園……そういうところは、おれもニレンも《終わり良ければ全てよし》だ。いや待て、おれは無能だと思っていたら本当の無能を超える無能だった、ニレンは大英雄になったと思ったら大虐殺の王様になっていた。うん、問題劇だな。

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