第7話 ガリア属州総督
事実上にはカエサル一人となった紀元前59年後半の執政官任期を彼は、無駄に
しなかった。
クラッススへの利益誘導が、まだ未解決である。
カエサルは属州法の中の属州税徴収請負業者の修正案を提出する。
ローマの属州税徴収はプブリカヌスと呼ばれる。
私営業者による入札制度で行われた。
カエサルの書斎で彼と総司が話している。
カエサル「落札に成功したプブリカヌスは、しかし徴税分の1/3をあらかじめ、
予定納税の感じで国家に支払うことを義務づけられている」
総司「その予定納税分を廃止してほしいというのが、プブリカヌスが属する
騎士階級[経済界]の代表格のクラッススが以前から要請していたこと
ですね」
カエサル「ああ。今までは元老院に反対されて実現出来なかったが俺はこれを
実現しようと思う」
総司「またお父様の腕の見せ所ですね。しかし元老院が反対してきた理由が、
1/3の予定納税廃止は徴税請負い業者の経済的負担を軽くするにすぎない
といっていますので、別の理由を示す必要がありますね」
カエサル「大丈夫考えはある」
総司「なんとなくわかりますが」
カエサルの提示した内容により、属州税徴収請負い業者法の修正案は、元老院で
可決されたのである。
クラッススは騎士階級[政財界]に対し、面目をほどこせたことになったので
ある。
今度はポンペイウスに面目をほどこさせる番である。
ポンペイウスが制覇した東方世界の再編成案は既に可決しており、また彼の旧兵
たちへの土地給付も以前に作成した農地法成立で解決していたから、
ポンペイウスに対しては三度目の利益誘導であったのである。
だが、カエサルはこれも、ポンペイウスの私益を考慮すると同時に、ローマに
とっての国益も共存させるやり方で解決する。
日を改めまたカエサルの書斎で総司と話す。
カエサル「地中海に接する東方世界を事実上ローマの覇権下に収めるという
大事業を成し遂げたポンペイウスだが、エジプトだけは放置している」
総司「放置出来たのは、長きにわたってエジプトが、ローマの友好国であった
からですよね」
カエサル「しかしプトレマイオス12世が首都アレクサンドリアの住民たちによって
国を追われた時から、不干渉主義を続けることも出来なくなっている」
総司「ローマの安全保障上、エジプトは重要ですからね」
カエサル「俺はイタリアに亡命してきたこの王を、ローマ軍の保護下、エジプトの
王位に復帰させることに決めた」
総司「なるほど、そうすることでポンペイウスは、エジプトまで自分の保護者
要するにクリエンテスにしたということになりますもんね」
エジプト王は、この御礼として、ポンペイウスに三千タレント、カエサルにも
三千タレント支払ったのである。
カエサルの分のその半分は、クラッススへの借金返済で消えたが、残りの半分を
カエサルは、エジプト王家の自分への債務として残したのである。
こうしてポンペイウスへの利益誘導は終了し次は自分の番となるときその前に
カエサルは自らの立つ基盤を固める事から始めたのである。
また日を改め総司と話す。
カエサル「今俺は独身だ。そこで妻に元老員の有力議員のルキウス・カルプル
ニウス・ピソの娘のカルプルニアを娶ろうと思う」
総司「そうですか。温厚な性格でありますしピソには敵が少ないですもんね」
こうして基盤を強固にしたカエサルは、忠実な護民官ヴァティニウスを提案者
にして、カエサルの属州統治権に関するヴァティニウス法なるものを提出する。
当時のローマでは、執政官は当選の前に既に、執政官の任期終了後に就任する
属州を、元老院によって決められてしまう。
就任後に執政官の権力を使って勝手に就任先を選べない様に、就任する前に
元老院が決めてしまうのである。
元老院の決めていたカエサルの任地はイタリア中の森林と街道担当というわけで
ある。
この任務で軍団は必要ない。
元老院派がこの任務を考え出したのはたとえ執政官当選を阻止できなかったと
しても、カエサルには軍事力を持たせたくなかったからである。
またまたカエサルは総司と話す。
カエサル「俺は今回ははっきりと元老院体制に挑戦状をたたきつける」
総司「新たな法律作成の提案をするのですね」
カエサルは彼の属州統治権に関するヴァティニウス法というものを提案した。
最初カエサルはこれに異を唱えなかったが紀元前59年も半ばを過ぎた
段階でのヴァティニウス法はこの任地変更が目的であり、カエサルもその頃には
はっきりこれには異を唱えていたのである。
カエサル「執政官を務めあげた後の俺の任務を前の任務地から北部イタリアと、
イタリア属州、つまり現在のスロヴェニアにクロアツィアの2つの
属州に変更する。
俺にに与えられる任期は5年、そしてまかされる軍事力は三個軍団。
総司「元老院派は眼の色を変えて反対しますね」
カエサル「一応手は打ってあるが」
ピソの根回しで少なくない数の元老院が賛成にまわった。
しかしカトーを先頭にする元老院体制堅持派は、断固反対である。
この時も三頭政治の効果は発揮されポンペイウスとクラッススは賛成に回った
が、元老院の大勢を変えるまでにはならなかった。
結局市民集会が招集されポンペイウスとクラッススの賛成が反映され
ヴァティニウス法は可決されたのである。
そして元老院と市民集会の決議が食い違った場合、市民集会の決議を優先する
というホルテンシウス法の前では元老員もどうしょうもなかったのである。
この1か月後、現在の南仏の属州総督だったメテルスが急死した為、この南仏属州
も加えるという補正案が提出された。
原案に承認を与えてしまっている元老院にはこれに反対できない。
こうしてカエサルは軍団数を四個軍団に増やし、3つもの属州の最高責任者を
務めることになったのである。
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