第4話 スペイン属州総督
カエサルはスペイン属州総督に選出されていた。
紀元前61年当時1年以上前から法務官になっていたことから、この権限を使い
世界三大兵法を始め、数々の著名な兵法を前世で習得していた総司に、カエサルは
しばらくは軍事は任せることにしていた。
総司の提案というのはこういうものであった。
まず法務官の立場内で出来る範囲で、当時、金だけで雇う傭兵制であった
ローマ軍を、給料はもちろんはらうが、国の為に戦う兵士の軍団の徴兵制に
変えたのである。
これによりカエサルの軍は、当初元老院派が予測していたものより数倍程度に
膨れ、更に国家の為に本気で戦う強力な軍隊に変わったのである。
中にはカエサル本人に忠誠を誓う兵士も、少なからず存在するようになった。
これはフランス革命後、ナポレオン・ボナパルトが初めて行った軍制度である。
そして次に、総司の提案で行った事というのが、当時ローマ軍は重装歩兵が
メインであり、騎兵はその補助的役割に過ぎず多くても全体の1/10程度で
あったが、共和制ローマにおける騎兵になれる階級を広げ、当時以前から
中世の東洋の方式を採用し騎兵中心ともいえる部隊を作り上げ、
騎兵は全体の1/5程度まで、訓練兵がそろったのである。
カエサル「これだけのことをやるのは、政治的にも軍事的にも、細心の注意も払うし、
頭もひねって苦労したぞ、ソウジ」
総司「まったくお父様には恐れ入りますよ。僕の注文をそのまま実現して
しまうんですから。しかもこれは予想以上ですよ」
カエサル「しかしなあ、今回はほぼこれは、お前の才能を試すためにやったことだ」
総司「ということは、今回のスペインの統治は、あまり問題ないということですね」
カエサルは、今回のスペイン属州統治は総司には言わなかったが、何をやるのかが
はっきりわかっており、それを経験した後に何をやりたいかも、はっきり
していた。
今回はカエサルの思惑通り大した戦闘無しで、属州統治はおわることになるので
ある。
属州総督カエサルが明示したことは、一種の税制改革である。
属州税を払う義務のある人と、ローマ市民待遇によって払わなくていい植民都市等
の区別を明確にしただけであった。
総司「今回のお父様の目的と目標が、今になってはっきりとわかりましたよ」
カエサル「そうか、お前にしては遅いのではないか」
総司「面目ありません」
それまでの属州総督たちは税の増収こそローマの国益に利すると思い込み、両者の
区別にも無関心であったからである。
税制がガラス張りでなければ、徴税相当の恣意(しい)が働く余地も生まれやすい。
今まで入札制度でもあった徴税担当者の選抜権をもっていた属州総督は、税の
増収分の何割かは自分の権利と思ってか着服していたのである。
これにより住民たちは喜び総督カエサルに献金したのである。
総司「一挙両得ですね」
カエサル「ここまでの所は読み通りだな」
カエサルはこの任務を代表にルキウス・コルネリウス・バルブスを登用した
のである。
その間カエサル自身は総司を参謀につけ軍団を率い、イペリア半島大西洋岸の
制覇行に専念したのである。
カエサル「ソウジ、お前には今回は実戦の空気だけでも味わってもらわなければ
ならないからな。ついてきてもらった」
総司「はい、お父様」
ローマ覇権が及んでいない地方を制覇することで、凱旋式を稼ぐつもりで
あったのである。
カエサルはローマ市民の支持を得る為に凱旋式を行うのであるが、凱旋式は
ローマの敵を撃退したりローマの力を広めたりした功績によって挙行を
許される栄誉である。
その為カエサルはイベリア半島西部一帯の制覇は、本格的には行っていない。
この様にやるべきことのみやって早々に帰任したカエサルだったが、彼を迎えた
ローマの空気は予想していたものとは違っていた。
一段と意気軒昴(いきけんこう)になった元老院派が、カエサルの希望等鼻で
あしらう勢いであったからである。
元老院派の意気軒昴の原因は、遡れば、丸一年前のポンペイウスのイタリア帰国に
始まっていのである。
スッラの改革以降、ローマ軍団の総司令官は、北から帰国する場合はルビコン川、
南からの帰任はブリンディシに到着した時点で、軍団を解散しなければならない
と決まっている。
総司令官は兵士たちに首都ローマでの凱旋式での再会を約束して、ひとまずは
故郷へ戻るよう言い渡す。
総司令官自身は少数の共ぞろえを従えただけでローマに向かうが、凱旋式挙行
までは、首都の城壁の内には入ってはならないとも決まっていた。
ポンペイウスが帰任して首都に近づく頃には、人々は彼の後ろに群をなして
従ったので、ポンペイウスさえその気になれば軍団の助け無しでもクーデターは
決行できるだろうとキケロをしてそう言わしめたのである。
カエサルと総司はこの段階で市民から話を聞いた。
カエサル「詳しい話は帰ってから市民たちに聞こう。さてどうしたものか」
総司「ここに来てあてがはずれましたね」
紀元前61年1月末、ポンペイウスはローマ外壁に到着する。
しかし、ここで元老院派はポンペイウスへの不安が解消したことがそのまま
自分たちの力の過大評価につながってしまったのである。
5年ぶりに凱旋したポンペイウスは規則通りにローマ市街に留まりながら、
元老院に以下の事を要求したのである。
1、凱旋式挙行の許可
2、紀元前60年担当の執政官立候補の許可
3、配下の兵たちへの退職金である農作地の配付
4、ポンペイウスが制覇後に再組織したオリエント諸属州同盟国の編成案の承認
1については元老院は問題なく許可を与えた。2については紀元前60年担当の執政官
を選出する市民集会は、紀元前61年の夏に開かれる。
ということは凱旋式まではローマに入れなく、その為凱旋式を犠牲にでもしない
かぎり執政官立候補は出来ない。
3についても元老院派は態度を明らかにしなかった。4についてもあいかわらず
未決で放置されたままだった。
カエサルは決心していたのである。
カエサルは翌年度の執政官就任をねらっていた。
しかし元老院派はポンペイウスに使った手をカエサルにも使ったのである。
公職を歴任し始めた5年前からのカエサルの言行は全て元老院体制打倒という
ことに繋がっていると言う事を元老院派も如才なくわかっていたのである。
特に3年前のカティリーナの陰謀の事件の弁論で元老院派はカエサルが元老院派の
中心人物と思われていたのである。
カエサルの書斎で総司と二人で話していた。
カエサル「元老院派は、私の立場と意図をある程度、わかっていたようだ」
総司「しかしまだ、元老院派もお父様の野心を、そこまでわかっていないのでは」
カエサル「どうだろうな。しかし俺はポンペイウスとは違う。ただ市民の支持
がなければ執政官には通らない」
総司「お父様には人気もありますが、名声もなかなか市民に響いています」
カエサルにとっては、凱旋式も執政官も、初めての機会なのである。
カエサル「確かに凱旋式の風を浮かべたら魅了もされる。しかし今回は
決心はついている」
カエサルはポンペイウスが虚栄心を満足させるのを優先させるタイプである
ということをわかっていた。
カエサルは名より、実をとったのである。
つまり執政官立候補の方を選んだのである。
しかし立候補はしたものの、凱旋式をしていない以上それは即、当選ではない。
カエサルの立候補を認めざるをえなかった元老院派は、彼らが一体となって推す、
強力な対抗馬二人の立候補を認めたのである。
立候補するだけでは当選確実ではないと考えたカエサルはフォロ・ロマーノの
演壇上に純白のトーガ姿で立つのである。
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