3話 押しの強い後輩にごり押しされるというありきたりな話

【厚地のYアカウント】

◯◯ダンジョン60階層の階段です。苔に隠されたボディは純白な大理石で、蹴上寸法は短め、美しいですね。

(60のプレートが掛かったトイレが映り込む階段の写真)

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△△ダンジョン78階層の階段です。古風な木製の階段で、厳かな雰囲気がありますね。

(78のプレートが掛かったトイレが映り込む階段の写真)

 →嘘乙w。△△にトイレは無いぞw

  →情弱乙。生えてきたぞ。…投稿日にな。

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 厚地は渋谷ダンジョンから水瀬水洗に帰ってきた。土産袋を中央デスクに置き、ホワイトボードの前に立つ。

 予定が一ヶ月先まで埋まっているのを見て、「俺は人気料亭か」と静かにツッコミを入れる。


「ただいまです。お土産の「東京ば奈な」ここ置いときます」

「良いなぁ、東京。私も旅行というていで出張行きたいです!」


 この前RINEにラーメンの写真を送られた上司(以下「甲」とする)がため息を吐く。


「逆だろうが」

「あ、そうだ。良いこと思い付きました!私も厚地さんの出張に着いていきます!そうすれば、会社としては忙しくさせてる原因にちょっかいをかけられて少しすっきりする。厚地さんは美女と二人旅できる。一石三鳥ですよ!会社のメリット少ないけど」


 慌ただしく走り、厚地の横、ホワイトボード前に立つ。


甘栗あまぐりさん、俺のメリット無いですよね」

「何か言った?」


 甘栗と呼ばれた彼女は首をかしげ、圧をかけるように厚地に問う。


「美人じゃないと言っている訳では無く、一人旅が好きなもので」

「良いじゃん。後輩の研修ってことで」

「ほぼ同期じゃないですか」

「私が入った頃には既にいたんだから、先輩ですよお。二週間なんて誤差です、誤差。あっ、来週の大阪!良いですね。粉もん食べましょうよ!」

「この後輩、俺より図々しい!先輩、何か言ってやってくださいよ」


 甲は少し悩んだ仕草をし、サムアップする。


「甘栗、存分に邪魔してこい。厚地、邪魔されても納期に遅れるんじゃねえぞ」

「先輩、酷くないですか?」

「「「いってらっしゃい」」」

「先輩方、俺のこと嫌いですか?」

「やった!経費で旅行!」


 こうして甘栗の現場研修が決まった。



 一週間後。厚地が幾つかダンジョンを回り、タスクを片付けて帰ってきた次の日。


「新幹線に乗るなんて高校の修学旅行以来です!」

「俺は毎週乗ってます」

「なんで厚地さんは私に敬語を使うんですか?甲先輩にはあんな態度じゃないですか」

「先輩にも敬語ですよ。喋り方は物心がついたときからです」

「嘘だ!」

「とりあえず寝かせてくれません?俺、昨日こっちに帰ってきてから寝てないんですよ」

「今日は夜まで寝かせませんよ!ねえ、先輩、敬語やめて下さいよ!このままじゃ後輩キャラが立たないじゃないですか!」

「Zzz」

「せんぱい!」

 

 新幹線は揺れないが、甘栗に揺られ、寝息を立てる厚地。この現在乗っている新幹線も、過去、ダンジョンの出現による線路変更があったりしたが、一般市民には関係の無いことである。



「着きました」

「ここですね!私、ダンジョンって初めてなんですよね!」


 初ダンジョンと言う甘栗の目はキラキラしていた。厚地とは真逆で。


「甘栗さん、初めてだったんですか?強いスキルでも持ってるから自信満々で着いてきたんだと思っていたのですが」

「ここをくぐった瞬間にスキルが貰えるんでしょ?なんかゲームみたいにステータス画面が出たりするんですか?」

「本当にダンジョンについての知識が全然無いんですね。

 良いですか?自分の能力、つまりスキルやステータスはギルドカードに自動で内部データとして刻まれ、勝手に更新されます」

「ほうほう」

「登録時は内容を見せてもらえますが、二回目からは受付の人に自主的に頼まないと見ることはありません。面倒なので、ほとんどの人は見ませんね」

「それはなぜに?」

「速くなったなら、速くなった。力が強くなったら、多少武器が軽く感じる。視覚的に認識する必要があまり無いんです。スキルなんて滅多に発現するものじゃないですしね」

「へえ。スキルって誰でも絶対に貰えるんですか?」

「『槌術(極小)』みたいなハズレスキルを引くこともありますが、基本全ての人間はスキルを得られると思います。俺に質問するより、さっさと中に入って、受付の人に質問すれば良いじゃないですか。きっと「面倒臭い奴が来た」って思いながら、親切に答えてくれますよ」


 厚地はふらっと入っていく。その背中を追いかけ、甘栗も入る。


「ここがダンジョンですかー。外から見たことはあったけど、中はこうなってるんですね」


 はしゃぐ後輩とやれやれ系先輩。しばらくして、甘栗が一言呟く。


「大きいですね」

「大きいですね」


 後半が厚地の台詞だ。


「本当に大きいです。ここ最近入ったダンジョン一階層セーフティエリアの中で一番大きいんじゃないですかね」

「」


 甘栗は口を開きっぱなしで、周りを見る。その姿は子供のようだ。

 一方、厚地はテーブル、椅子の多さに驚いていた。休憩や待合室として使えるサービスで、部屋の広さ次第で無い所もあるのだが、ここは他ダンジョンと比べて段違いで多い。厚地にはアメリカ刑務所の食堂という言葉がしっくりきた。


「先輩」

「なんだ?」

「私達の格好浮いてますよね」

「そうだな」


 甘栗の服は動きやすいチノパン、薄いアウターにTシャツ。厚地はパーカーに、動きにくいジーパンだった。


「甘栗さん、もっとしっかり装備して来てくださいよ。今時、鎖格子と革防具くらいなら中古でも売ってますよ」

「先輩こそ!何ですか、その普通に動きづらい格好は!?」

「私服です」

「でしょうね!!」

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 【後輩】本名は甘栗彩織さおりです。次々話以降登場は減るでしょう。

 【上司】役を付けるかどうか、付けるとして何の役なのかも決めてない人です。主人公とはかなり絡ませる予定なのでキャラを作っときたいです。名前も決めていなかったのですが、もう苗字:甲で良いかな、と。んで、きのえ真吾しんごです。

 ちなみに、水瀬水洗株式会社は誰も厚地のユニークスキルのことを知りません。

Q.どうやってこの活動を始めたのか?A.そういうものだと思ってください。

Q.社員は活動についてどう思っているのか。A.ダンジョンに仮設トイレを置く、その電話対応。という事業をしていると思っている。

Q.社員は厚地に対してどう思っているのか。A.強い探索者なんだろうなぁ。

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