2話 ダンジョン配信者のカメラに映り込むというありきたりな話
全てのモンスターはダンジョン内(物理)にいると気付かないため、暇なんだよな。と、厚地がフラグを立てていたところイレギュラーボスに襲われた。
イレギュラー化とは強さ自体は変わらないが、おかしな変化をしたり、変な能力を使ったりするようになることをいう。
新宿ダンジョン1874階層。それが今、厚地がモンスターから逃げ回っている階層だ。1880階層まで攻略されており、世界4位の階層数と言われている。
今回、襲われたイレギュラーボスは大蛇。階段に足を…のタイミングで、大蛇のスキルにより、厚地は動けなくなった。
咄嗟にスキルでダンジョンに潜って一息吐いた厚地だったが、イレギュラーボス、大蛇が得た能力は『コピー』。相手から一つだけスキルを見て盗むというスキルだ。
これが事の顛末である。
「あ、そこの方、すいません。トレイン(モンスターのなすりつけ)になってしまうかもしれません」
ダンジョンを逆走する私服の男、ダンジョンを海のように自由に動き回る大蛇。
先にはリュックを背負い、剣を拵えた一人の女性探索者。
「別に良いわよ。私にヘイトは向いてないみたいだし」
彼女の周りにカメラが浮いてることから分かるように彼女はダンジョン配信者だ。
配信の枠名は「【ソロ探索】新宿ダンジョンの記録を更新してやるわ」。
彼女は自分より先にソロで潜っていた探索者がいたことに少しムカついていた。
「あ、じゃあ、トレインします」
厚地はそう宣言し、消えた。
大蛇は厚地を見失い、キョロキョロ。近くにいた彼女に『蛇睨み』をした。
「意図的にトレインしてるじゃねえかよおぉぉぉぉぉ!」
彼女は蛇に睨まれ、動けなくなった。これが真の蛙化現象。
厚地が消えたのは、『ダンジョン移動』ではない。発動したのは『異次元収納』。自分を収納した。食べ物さえ、収納しておけばただの安全な家という訳だ。ネットは繋がらないが。
「一人のときに使えば?」と思われるかもしれないが、発動者自身が収納内にいるとき、出口は入口と同じ場所にしか作れず、蛇は厚地より少し速い。厚地は階段を背にして走っているため、どうにかして大蛇の気を散らす必要があった。そこで彼女の登場というわけだ。
氷を活用した古典的な冷蔵庫から缶ジュースを取り出し、ハンモックに体重を預ける。
しばらく体を揺らして、腕時計を確認する。異次元に入って約20分。
異次元から顔を出し、確認する。
「そろそろ終わりましたか?」
「ふざけるんじゃないわよ!」
剣を持つ彼女はボロボロ、一方の蛇は片目を潰されているようだ。若干だが、ダンジョン配信者の劣勢のようだ。戦犯は『ダンジョン移動』をコピーされた厚地だが。
「こんなところまで来るんだから強いと思ってたんですが、そんなものなんですね」
「うるっさいわね!あんたもこっち来て闘いなさいよ!」
実際、厚地にできることは多くない。
「カラーボールでも投げて、もう片方の目を潰しますか」
STR:F、厚地の投球。投げました、1ストライク、2ストライク、ボール、3ストライク、ピッチャーアウト。
「あなた、本当に当てる気あるの!?」
三球目以外は全て彼女に当たった。
「あれ、今なら俺にヘイトは向いてないですし、階段に行けるのでは?」
20分振りに異次元収納から足を出した厚地は、即、壁に埋まり、走った。
残されていた彼女は、『逆上』という新たなスキルが発現。これは怒れば怒るだけステータスが上がるというスキルだ。
彼女は『逆上』(対象は厚地)を活かし、辛くも大蛇を討伐。彼女は、セーフティエリアまで辿り着いた。
彼女の配信に送られるコメントの大半は厚地に対しての怒りで一杯だった。彼女の使う高性能カメラの機能で、配信者(彼女)以外の人の顔にモザイクが入るように設定されているため、厚地は特定をされるに至らならなかったが。
コメントが過剰に怒り狂っている様子を見て、少し頭が冷えた彼女は、一度配信を切ることにした。
彼女はリュックからブルーシートを取り出し、床に敷き、寝転んだ。
ここまで、彼女がダンジョンに入ってから二週間。携帯食料も折り返し、水は魔法で補っている。
「寒い。トイレ…」
彼女はリュックを漁り、ダンジョン探索最初の二日間分の飲料が入っていたボトルを取り出す。
ベルトをガチャガチャと手解き、ズボンに手を掛けたとき、向かいに仮設トイレがあることに気付く。
「あれ?トイレあんじゃん」ガチャッバタン
「ちっ、」
舌打ちしたのは我らがクズ、厚地だ。彼女がカメラを切った辺りから下にいた。
「…携帯食料ですか。仕方がありません。もっと良いものをあげましょう」
厚地はやれやれとため息を吐き、厚地が好きな「the·ニンニク」シリーズのインスタントラーメンと冷凍餃子をカセットコンロで調理する。
完成したセットをどんぶりと皿に盛り、ブルーシートの上に置いた。
さて、ここで疑問が出る。トイレ長くない?と。二人がかち合わない理由は二つある。
一つ、元々厚地が食べるように半分準備していたために時間が掛からなかった。
二つ、少し開いている仮設トイレから覗いている目。
見られていることにも気付かず、厚地は缶のリンゴジュースを置き、メモ帳に「ゴミはトイレに流してください。」と殴り書きして缶ジュースの下敷きにした。
「よしっ」と頷き、逃げるように階段を駆け上った。
彼女の厚地への怒りは完全に収まっていた。
「ニンニク臭っ!」
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ハーレムもの、チョロインが嫌いな人へ、安心してください。無いです。
「the·ニンニク」シリーズは日辛フーズの大ヒットシリーズでニンニク好きにとても人気です。
「配信者を囮にしなくても、気を散らす手段はあったんじゃないのか?」という質問が出るかもしれませんが、彼のステータスは貧弱、大蛇はつよつよステータスに最強スキル。考える時間もありませんね(知らんけど)。
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