1話 ユニークスキルを利用し、チートするというありきたりな話

 北海道から帰った厚地はすぐに熊本に飛ぶことになった。


「旅行は好きですし、色んな場所の階段が見られるのは良いですが、もう少しゆっくりしたいですね」


 厚地は八代ダンジョン前に立つ。彼は初めて入ったダンジョンに似てるなあ、と余裕綽々としていた。

 入り口ど真ん中に堂々と立つ厚地を避けて通る探索者は迷惑そうな顔をし、舌打ちして横切る。

 当然だろう。ガッチガチの装備を着て、これから命を懸けてダンジョンに潜るというのに、厚地はラフな私服に手ぶらである。

 入り口をくぐるとどこのダンジョンでも変わらないダンジョンギルドのカウンターの賑わいが目に映る。地域差があるとすれば過疎化による受付の年齢層の差だ。


「私は依頼を受けた水瀬水洗の厚地と申します。これから作業を始めさせて頂きます。では」

「あの、名刺じゃなくて、ギルドカードを…」


 本来、ダンジョンに入るときは、「今、誰がダンジョンにいるのか」を管理するために、カウンターの受付にギルドカードを提示する義務がある。

 厚地は一番可愛いと思った受付嬢に名刺を渡してカウンター横を抜けた。

 部屋を跨ぐ刹那、厚地はとあるスキルを発動する。その名も『ダンジョン移動』。これは厚地がダンジョンに初めて足を踏み入れたときに手に入れた二つのスキルのうちの一つ。

 『ダンジョン移動U』は世界で厚地だけのスキル、ユニークスキルだ。

 スキル名の最後、Uがユニークスキルである証拠である。ユニークスキルといっても珍しいものでもない。ユニークスキルというもの自体は十人に一人といった確率で発現する。性能もピンからキリで使えないものもある。

 『ダンジョン移動』はその名の通り、ダンジョン内を移動するスキルである。といっても瞬間移動のようなものではない。文字通りダンジョンを移動できるというスキルだ。ダンジョンの壁や床をすり抜け、誰からも感知されることなく歩くことができる。

 ダンジョン内(物理)からはダンジョンの様子がガラス張りのように見え、水族館のように観覧できる。

 イメージすることでダンジョン内(物理)の足場は自由に作ることができ、階段や水平エスカレーターオートウォークなども自由自在だ。イメージには集中力が必要で、とても疲れるため、厚地は普段使わないようにしている。

 階ごとの天井は強化ガラスのようになっていて、通り抜けることはできなかった(実験済み)。


「スカートで挑む初心者が多いのは上層ですが、今日はいないみたいですね。外れか」


 (ダンジョン下)直進でボス部屋までたどり着いたクズは、ボス部屋内1~2階階段前にニョキッと生え、階段を駆け下りる。これで一階層突破である。

 昭和アニメの走り去る効果音が似合いそうな走り方をる厚地にボスは気付きすらしない。厚地の完全勝利だ。

 階段に入ると、そこはセーフティエリアだ。セーフティエリアとは階段から階段を下った一部屋までのことで、モンスターが絶対に入ることができないとされているエリアだ。例外は…後に紹介するスキルのみだ。

 周りに誰もいないことを確認した厚地は、仮設トイレの設置に取り掛かる。見られてはいけない訳では無いのだが、七不思議と騒がれてしまったことを変に意識してしまっている。

 さあ、先程手ぶらと書いたが、仮設トイレを抱っこして来た訳でも、ましてや、トラックで来た訳でも無い。

 実は、仮設トイレは厚地のもう一つのスキル、『異次元収納』に突っ込んである。

 『異次元収納』はシンプルなぶっ壊れ性能スキルだ。容量は大きめの公園くらいあり、生物も入る。

 別スキル『アイテムボックス』との差別点は生物が入るか、それと時間経過があるか、だ。『異次元収納』は時間経過があるため、生物を入れても、食べ物が無ければ餓死してしまうため、スライムのように何も食べなくても生きられる生物でない限り、生物を入れるときは注意が必要だ。

 1~2階階段横に男6、女6、と仮設トイレを並べて設置する。一番端、階段横のトイレに3Dプリンターで作った「2」プレートを掛け、プレートが映るように位置調整をし、階段を写真に収める。


「新ダンジョンということで、1~2階の階段にしては摩擦による磨り減りも少ない、オーソドックスな石レンガ階段ですね。見所はそんなに無いですね。よし、次行きますか」


 3階、4階、…そして、5階。トイレを設置し、スキルを発動。

 厚地の顔が埋まり、透視した瞬間、嫌な出来事が目に入ってしまった。


「新ダンジョンの初攻略を狙って急いだんでしょう。帰りにギルドカードは拾ってあげます」


 ダンジョンはフィクションのデスゲームよりも死人が出る場所である。そんな場所が透けて見えるということは他探索者より人死に現場を目撃することは多い。並みのメンタルじゃやっていけない。


 仕事を終え、一階に戻ってきた厚地。誰もいない所で、土管から出てくるマニオの真似をして、床から飛び出す。そして、厚地は腹減ったなぁ、といつも通りの様子でカウンターに向かった。


「お久し振りです。作業は終了しました。あ、こちら、5階層で亡くなられていた探索者の持ち物とギルドカードになります」

「あ、もう終えられたんですね。こちらは預からせて頂き、ご遺族の方に連絡に致します」

「このダンジョンは全30階ですね。他のダンジョンと比べると階層少なめで、モンスターも強くはなさそうでした。ではっ」

「あ、はい。またの…じゃないですよ!ギルドカード出してくださいよ!」

「さっき出しましたよ?」

「亡くなった方のではなく、あなたの!」

「いやー、私はステータスが低いので見られるのは少し恥ずかしいですね」


 頭を掻きながらギルドカードを渡す厚地と、ガン無視でギルドカードを受け取り、スキャナーにかける受付嬢。


「はい、終わりました。これからは入るときに提出してくださいね」

「あ、そうだ、近くに美味しい熊本料理が食べれる場所知りません?」



 台風が去った。他のギルドから派遣されて来たので、受付嬢歴は短くない。そのため、様々な迷惑客の対応もすることは多々あるが、彼は特に異質だった。


「何?あの人」



【厚地優輝】

HP:G STR:G VIT:G INT:G MND:A AGI:B

武器適正:無 魔法適正:無

スキル:ダンジョン移動U、異次元収納

進捗:八代ダンジョン30階層、釧路ダンジョン55階層、…

_________________

 ダンジョン内(物理)の視点はマイクラのスペクテイターモードみたいな感じですね。語彙力無くて誠にごめんなさい。

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