第2話 森さんはうるさい?
問 恋愛に意味はあるか?
A ある
もしこの世に恋愛に意味はないという輩がいたとしたら私はその人ときっと仲良くできないだろう。
恋愛に意味はある、これは私の中で絶対だ。だって恋愛に意味がなかったら何があるというのだろう。
恋愛とは誰かを好きになってその人に告白して、あんなことやそんなことをする、そこに意味が無いわけないではないか。
そんな私、森
いつもぼーっとしてる彼の顔を見てるだけで胸踊るし、サラサラの黒髪に触れてみたいとも思う。まっすぐ伸びた鼻筋と少し細い瞳がかっこいい、たまにカッコつけようとして足を組む時に机の角に足をぶつけることでさえ可愛いと思える。
彼は何を考えているんだろう、私のことを考えてくれているかな、なんて思ったりする。
「森さん森さん今日の放課後カラオケ行かない?」
出たなキンタマの擬人化め、何回も何回もなんとなく遠回しに断ってたのにまた来たか!!
こいつの名前は山田哲太、入学直後に作られたクラスのグループラインから女子の連絡先を入手し、その連絡先に”え?君って彼氏いるの?”と無差別にこの怪文書を送ったのだ、あげくにはスリーサイズを聞いてくるという変態っぷり、その件があってからこいつの名前はキンタマとなっているのだ。
人見知りな私だけどこいつはゴキブリ以下の存在だと思っているので慈悲を与えるつもりで話すことができる。
「あ、ごめんなさい、今日は優香と出かける予定なんだー」
「あ、そうなんだ」
ごめんねキンタマ嘘なんだ、今日私は特に何もせず速攻で帰って昨日見た恋愛アニメの続きを見て恋愛についての造形を深めると決めているのだよ。
「そ、それでどこら辺に買い物しに行くの?」
こやつ食い下がる気か!
「あ〜それは」
ダメだ、いい言い訳が思いつかない。う〜けどここで正直に言ってしまえば今までに築き上げてきた私の清純真面目ガールとしての印象が崩れてしまう。どうする!
「ここから電車で10分の所にあるイオンだよな」
「え?」
村田君、もしかして私のために!?え、ちょっと待って嬉しすぎて表情固まっちゃう。
「なんだよ、村田ー急に口挟んで来んなよ」
「い、いいじゃないか別に」
そうだぞ村田君の言葉に横から茶々入れるな、叩き殺すぞ。
「よくねぇよ、今は森さんに聞いてんだからよぉ、まぁいいやそれで?森さんは本当はどこに行くの?」
「え、あぁ、えーと」
今日も今日とてしつこいなこいつ、さてどうしようかな。
「おっと、キンタマ君そこまでにするといい」
この声は優香だーーーー!声には出さず心の中で救いの女神に叫ぶ。
「んだよ優香お前に用はねぇよ、あとキンタマと呼ぶな俺の頭は坊主なだけだ」
ふざけんな!お前は心の中までキンタマだろうが!
「帰るべきはあんたの方だよ、ほら授業始まるぜ」
そーだ!そーだ!
「やべ」
キンタマは焦ったように自分の席に戻っていく。それを見届けてからスマホの黒い画面に映る自分を見る。
·····つくづく自分は卑怯だなと思う、口には出さず誰かに助けられるような立ち振る舞いをしているのだから。卑怯でひ弱で性格が悪い私、こんな私が恋なんてしていいのだろうか。
少し気持ちが下向きになった。
でもまぁそんな私も嫌いでは無い。
だがすぐにそんなナーバスな気分は消え去った。
「おい、何得意げに笑ってんだよ、追い払ったのは私だぞ」
「………」
「黙るな」
「………その手を離した方がいい、俺は昨日頭を洗っていないからな」
え!嘘!
「うわっきたねっ!!」
汚くなんかないよ優香!村田君昨日頭洗ってないんだ、なんてワイルドなの!かっこいいわ!!
「早く席に座れよ十勝ー」
「な、くっ後で見てろよ」
よし、優香は後ろに座ったね、じゃあ始めるとしますか、私の長くて遠回りな告白計画を。
「えー、ここはこうであるからにして·····」
先生の退屈な授業を耳から耳へ流しながら一心にノートから破りとった切れ端の紙にある文字列を書いていく。
”君はその真意を知らない”
私の真意、この恋心、それを君は知らないよねでも君には知って欲しいから、ちょっとだけ混乱してもらうね。
·····でもダメだ、どうやって渡そう。クールに飛ばしてかな、それともそっと紙を机に乗せればいいかな?
わ、分からない、ダメだ今の私ずっと村田君を見ていることしかできていない。きっと怖がってるよね。
ううぅ、このままじゃダメだ!いっそ渡してしまおう!えい!
それはクールでもおしとやかでもない空中で紙を離すという雑な渡し方、隣同士と言っても机と机の間にはそれなりの距離がある、だとすれば紙は空中でヒラヒラと舞うのは必然だ、だが奇跡的に村田君の席の上に乗せることに成功した。
よし!紙を見たね村田君どんな反応を·····
え、あの顔は何?どっちなの?全く表情筋動いてない、唇どころか瞬き一つしていない。どういうこと?
やば、どうしよう、そうだ!どんな感じだったのか感想を聞こう!
そしてもう一度ノートから紙を破り文字列を書いていく。
”どうでしたか?”
よしこれで行こう。
同じように紙を飛ばして村田君の机の上に乗せる。
今度も同じように村田君はその滑らかな手つきで私の書いた紙を手に取ってくれた。
胸の鼓動を聞きながら私は一度自分を俯瞰的に見た。
·····あれ?私もしかしてやってしまったのでは?だってもしも村田君が何も分からず混乱しているだけだとしたら!
私のあの”どうでしたか?”と書いた紙なんてさらに混乱させるものでしかないのでは!?
や、やってしまったァァァ!!!!計画の第一歩目からやってしまった!!
首に力が入らなくなった私はガァァァン!と額を机にぶつけてしまう。
それはもちろん先生にも聞こえてるわけで·····
「おい森大丈夫か!」
その声は私には聞こえていたものの、顔を上げる元気が無かった。
私の告白計画一歩前進?
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