初めての彼女とぴったりと
「ねえらい兄、マイクってどこに……」
マイクの場所を聞こうと思ってリビングに降りると、ソファの端でくっつき合って一緒に寝ているらい兄と
「……まったく、この前誠実を叫んだのは、どこの誰何だか」
あれだけ格好良く宣言しておきながら、同じ屋根の下に彼女を置いたまま他の女と一緒に寝るとは、不届きにも程がある。
それを言葉にして、思わず口元が緩んでしまった。
「
「らい兄も分からないって! 部屋にあるはずだから探してってさ!」
「分かったー!」
お姉ちゃんが声を張るタイプでよかった。玲奈さんだったら、聞きに来ていただろうし。
お休みを告げようと思う。二人には、しっかりとしたお別れが必要だと思うから。
それを不誠実と罵るのも、決しておかしなことではないのだけれど、ただ、それは二人には当てはまらないことだから。
一人の大切な人を巡ってぐちゃぐちゃになったその関係に、今更誠実も不誠実も無いって言うのは大前提なのだけれど、二人して、互いに愛しながらもそれを紡ぐことの出来ない現状を上手く飲み込むことは、やはり難しいのだ。
複雑に絡まり合って、離れて、再びくっ付いて。何度も何度も繰り返すうちに結び目も見つけられないほどにごちゃごちゃになって。くっつき合って離れられないのを、やはり私も責められないのだ。
羨ましい。その、嘘にも似た関係が。嘘ならば、覆されることは。嘘は嘘として、現実よりも強固な関係に成るのだから。いや、二人にしてみれば嘘ではなかったのだろう。それでも虚構だ。そこには存在しない、あるはずなのに形のない、偽り。
だからこそ羨ましい。真実と違って壊れることも無いのだから。
私には、やはりこう思えてならないから。
らい兄にとって最初の恋人は、やはり
不完全で、未完成なその感性に名前を付けることを、私は恐れている。そんな曖昧なものを認めたくないと、幼きながらに思っていた。
だから、らい兄と
それが例え傷心を労わっただけの恋心だったとしても、それでも、
偽りの中に、確かな真実があったはずだから。
その真実を、暗闇に沈めようと思うのだ。
「お休み、二人とも」
私は静かに、リビングを後にした。
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