第十四章 初めての彼女と学園祭 二日目前半
初めての彼女と本番当日
学園祭二日目の朝、玲奈さんの家の前には車が泊まっていた。
「あ、頼斗君おはよう」
「うん、おはよう玲奈さん。皆もおはよう」
「お、頼斗来たね! こっちは準備万端だよ!」
「さあさあ乗って急がないと遅れちゃうよ!」
「そんなにギリギリじゃないぞ……よろしくお願いします」
運転的にいる美空父に挨拶すれば、愛想よく手を振り返してくれる。何度か顔を合わせたことはあるのだが、いつも柔和で物静かな人だという印象だ。娘の二人とは大分違って見える。
俺たちは、昨日の晩に連絡し合って双葉さんに送ってもらう予定の
大きな理由としては
ドラムを積んでも問題ないトランクを持つ大型車。乗ったことのない、ミニバンタイプ? の車に乗り込んで学校へと送り届けてもらった。
「お、重い……」
「ら、頼斗君頑張って!」
「頼斗、お父さん、ファイトだよ!」
到着後、駐車場で車からドラムを取り出し、台車に乗せる。
「二人ともありがとね。よし、このまま体育館に行けばいいんだよね?」
「あ、ああ。それじゃあ、行くか」
持ち主である
「あ、じゃあ私は
「私も待ってようかな。二人とも、頑張ってね!」
「分かった。
「うん。また後でね!」
体育館へと向かい、人のまばらに通る体育館の入り口が見えて来た頃、
「らい兄は日記書いた? お姉ちゃんも私も結構苦戦しちゃって」
「俺もあんまりだな。一応記録、は付けれたと思うんだけど、それが日記かと言われるとなぁ」
「ああ、それ分かる。なんか淡々と出来事書いちゃうよね。それでいいような気もするし、ちょっと違う気もする。でも、らい兄は得意そうなのに」
「そうか? 俺は自分にそういうイメージ無かったな」
ものを書くことに特段得意意識は無かった。むしろ、少し苦手だと自負していた。自分の感じたこと、考えていることを他者に伝える場面において俺の表現力の欠如は顕著だったと思う。
「なんて言うか、自分を持っていたような気がする。自分なりの考えとか、大げさかもしれないけど正義とか」
「あー、それはそうかもしれないな。まあ、忘れたい記憶とも言えるんだが……」
「え? 何か言った?」
「いや、なんでもない」
いわゆる中二病というやつだ。クールを気取って、人に考えを説いて聞かせる。今もそれが無いとは言い切れないが……数年前までは分かりやすかったかもしれない。
「そんなことはないぞ。俺的には、そういうこと得意そうだと思うのは、
「そう? ん~、
「そうだな。自分から積極的に何かをすることが少ないから、もしかすると俺たちはあんまり
何年も一緒にいるけれど、そのすべてを知っているわけではない。こんな時にこんなことを、ってそういう予想は出来るけど、具体的な好き嫌いとかはあんまり知らないかもしれない。
「後で聞いてみようかな。玲奈さんも気になる。玲奈さんも書くの得意そうだなって思ってるんだけど」
「俺も得意だと思っているが、成績が良ければ書けるってわけでもなさそうだからな。俺、自分の成績の割に書けな過ぎて普通に驚いたぞ」
「……らい兄、事実を言っているだけのつもりなんだろうけど、煽りになるから人前で自分の成績の良さを口にするのは止めた方がいいと思うよ」
「そ、そうか? 気を付ける」
体育館の入り口を超え、ステージ袖に向かいながらされた指摘に、かなり思い当たる節がある。
それが相手にどんな印象を与えるのか考えず、ただありのままを話す行為。堅苦しく言えばそんなものだが、ノンデリカシーと言えばいいのだろうか。俺はそれに当たるのだろうと、一応自覚はしていた。
「……俺、そういうの多いよな」
「あ、自覚はあったんだ。私たちはともかく、新しく友達とか作る時に嫌われちゃうかもしれないから、今のうちに治しておいた方がいいよ」
「善処する。ただ、気付いたら教えてくれないか?」
「いいよ、ほとんど無自覚だろうから、治すのも大変だと思うしね。っと、ここでいいんだっけ?」
「ん? ああ、ここだな。お疲れ」
楽器の搬入場所まで運んだ後、近くにいた準備中だと思われる生徒会の人に声をかけ、体育館を離れる。
「らい兄は察して、とか言わないから会話自体は楽なんだけど、言葉が真っ直ぐな反動か表情が動かなくて読みにくいし、結構情報不足で相手を勘違いさせる質だと思うから、気を付けてね?」
「もっと早く教えてくれないか?」
例えばそう、新年度が始まる前とか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます